シーラじいさん見聞録

   

「了解」ペルセウスは、そう答えると姿を消した。
オリオンは海や空をじっと見た。重い風が吹きはじめている。雨を含んでいるのだ。
水平線から真っ黒な雲が湧きだしている。あの雲が雨を降らしているのだろう。
あの雲がこちらに来ると強い雨が降りだす。そうなれば、星座を使うことができない。
オリオンはどうすべきか考えた。
風はさらに強くなり、雨が混じりはじめた。風が渦になってきた。
オリオンは、暗くなりつつある空を見た。黒い雲が四方八方からも来ている。
風がぶつかっているのだ。行き場を失った風が渦となって唸り声をあげている。まるで空に無数の怪物がいるようだ。
風に押しながされていた波も、反対側から来る波と大きな音を立ててぶつかり、それに負けじと大きな声を上げ、オリオンの体を大きく揺らした。しかし、流されるわけにはいかない。ペルセウスたちと会えなくなってしまう。オリオンは少し潜っては位置を保った。
雨が激しくなった。体に当たって痛いほどだ。
これはまずいことになったぞ。あの子供は体力をなくしているはずだから、このままではどこかに流される。少ない人数でどう探せばいいのか。
風がさらに激しくぶつかり、渦が鋭い声を上げる。雨も激しくなり、前を見ることもできない。
しばらくすると風が止み、波が静かになるときがある。四方の風の強さが拮抗するのか。
そのとき、どこからともなく声が聞こえてくる。それは大きくなったり、小さくなったりする。
まだ子供を探しているのだ。シャチと協力できればいいが、今からは無理だ。ぼくらはぼくらだけで探さなければならない。
子供に体力が残っていて、海の下に避難していたらと願うばかりだ。
凪になっとき、オリオンという叫ぶ声が聞こえた。「おーい。こっちだ」オリオンは大きな声で答えた。
しばらくして、ペルセウスたちが集まってきた。ミラの大きな影もいる。
「みんなを呼んできたぜ」ペルセウスが言った。
「すごい風と波だな」オリオンが声をかけた。
「かなり下までうねっているのでびっくりしたよ」シリウスが言った。
「まだ見つかっていなよいようだ」オリオンが言った。
「そうだ。途中、大勢のシャチが探しているのに出会った」ペルセウスが答えた。
「ぼくらも助けようと思う。しかし、この風だ。最初みんなで風が進む方向を探そうと思ったけど、風が渦を巻いて、方向が定まらない」
「どうしたらいいの?」ベラが聞いた。
「大体の分担を決めよう。風の動きに注意してくれ。その方向に子供がいないか見るのだ。
風がきついと、自分を流されてしまう。そんなときは少し潜って自分の位置を確認することだ。
ペルセウスは、みんなの連絡役に徹してくれ。もし見つかっても、一人ではどうしようもない。
すぐにぼくらを呼ぶのだ。そして、ミラの波でつれてかえろう」オリオンは指示を出した。
「了解」みんなは風の唸り声に負けないように叫んだ。
オリオンは、今いる場所を中心とした円の半分を割りあてた。半円は、シャチの社会に向いているのでシャチが探していると考えたのだ。そして、半円を4分割した。
「じゃ、行こう」オリオンは叫んだ。
風は少し弱くなってきたが、雲が低く垂れこめているのか真っ暗だ。子供に近くにいても見えない。信号を送りつづけながら動くしかない。
風がぴたっと止んでも、シャチの声は聞こえない。もう見つかったのか、あるいはあきらめたのか。
数時間立ったとき、「いたぞ!」ペルセウスが飛んできた。
「見つかったか!どんな様子だ?」
「ベラが見つけた。死んでいないが、ぐったりしている。
近くにいたシリウスに頼んで、ミラを呼んできてもらっている」
「そうか。案内してくれ」2人は急いだ。
まずミラの大きな影が見えた。近づきと、シリウス、ベラの影も見えた。
そばには動かないものがいた。
ベラは、オリオンを見ると、「弱っているけど、意識はある。大丈夫、もうすぐ帰れるからと言うと、うん、うんと返事をするから」と説明した。
「大丈夫だな。ベラ、よく見つけたな」オリオンはベラを褒めた。
「風が少し収まると、雲の切れ間から小さな星が見えたの。それで、まわりをじっとみていると、夜の暗さとちがう黒さを感じたの。星の光で光っているような。
それで、近づいたの。そしたらじっとしているのがいたのよ。
ペルセウスが来るまで、どこかに流されないように見張っていたの」
「ベラは天才だ」シリウスが感心したように言った。
「ぼくもそう思うよ。それじゃ、ミラ、またきみの波
を頼むよ、風が止んだから早く帰れそうだ」
「わかった」ミラは、少し遠くに行ってから、子供の横に来たとき、かなりの速度を出した。
協力してリゲルをつれて帰ったことがみんなの自信になっていた。
オリオンが注意をしなくても、ミラは速度の出し方、シリウスやベラは運ばれる者がミラの波から外れないように注意すること、ペルセウスは一行の先回りをしての偵察などを完璧にこなした。
3時間ほどで、シャチが住んでいる場所に着いた。

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