シーラじいさん見聞録

   

シャチはしばらく来なかった。本来シャチは家族ともに行動しているので、家族でどこかに行ったのだろうと、リゲルは気にしなかった。
ある日、リゲルが見回りをしていると、どこからか、おーいという声が聞こえた。
聞きなれた声だ。リゲルは声が聞こえるほうに行った。
向こうからも急いで近づいてきた。「まだいてくれたか」とうれしそうな声が聞こえた。
あのシャチだ。「約束したじゃないか」リゲルもうれしそうに答えた。
「そうだったな。実はきみにお願いがあるんだ」
リゲルはうなずいた。
「パパがきみたちに会ってお願いしたいと言っているんだけど」
「何だろう?」
「あの日帰って家族に、きみたちが集まり、鳥たちから話を聞いたことを言ったんだ。
クジラやイルカが同じ仲間で、鳥の話を聞いたって!そんなことがあるもんか、おまえは襲われたときに頭も打っていて、おかしくなったじゃないかとみんな言うのだ。
ぼくを見舞いにきてくれた者がいたじゃないかと言うと、それじゃ、あいつにたぶらかされているにちがいないと相手にしてくれなかった。
しかし、数日後、兄貴たちが急いで帰ってきて、たいへんものを見てしまったと家族に話したんだ」
「なんだ?」
「やつらは、小さな船からニンゲンを引きずりおろして襲ったといのだ」
「そんなことができるのか?」
「ニンゲンは、その辺で海の者を入れて帰る。その入れものの中に入り、大勢で入って引っぱったというのだ。
すると、船を傾いていって、見に出てきたニンゲンをジャンプして海に落とした。
何人かのニンゲンを落としたそうだが、一気に襲いかかった。恐怖の叫び声や救助しようとする声で恐ろしいような光景だったそうだ。
ぼくらは、ニンゲンというものを食料にしないので、ニンゲンを襲うことはしない。
やつらはあの演説の内容を信じているのだろうかと、兄貴たちも、ようやく何かが起きているのを感じたようだ。
パパは、わしが若い者に意見をしてくると出かけようとでしたが、兄貴たちは止めた。
これは根深いから、そんなことをしても解決しないと説得した。
それなら、弟の話を信じて、きみらの話を聞いてみようとなったのだ。
みんな、きみらに会ってみたいと言っているんだけど、来てくれないだろうか」
「わかった。シーラじいさんも快く認めてくれるだろう。オリオンを連れていきたいので、一度帰ってから行く」
リゲルは、シーラじいさんがいる場所に戻り、シーラじいさんに話をして、オリオンの帰りを待った。
リゲルは、オリオンに、大体のことを説明して、シャチがいる場所に向った。
途中まであのシャチが迎えに来てくれていた。その案内で、家族が待つ場所に向った。
近くまで行くと、パパとママらしき者がいて、そのまわりには兄たち、そして、その外にも大勢集まっているのが見えた。
そのシャチは、パパに近づき、何か話した。
パパは、リゲルとオリオンのほうに向き頭を下げた。
「ようこそおいでくださった。あなたたちのことは息子から大体聞きました。
最初はとても信じられなかったが、他の子供や親戚の者が見たり聞いたりしたことを考えあわすと、あなたたちが言っていることをもっと聞くべきだと考えるようになりました。
わしらはいつも家族で行動をして、家族のために一生をささげる。それ以外のことしない。
それなのに、おかしなことをする者があらわれたのは、やはり、何かが起きていると思わざるをえない。
しかし、そいつらも、何も好き好んでそんなことをしているはずはない。世の中が平和なら、そんなことは絶対すまい。そう思います」そこまで言うと、パパは言葉を止めた。
「遠い世界で何かが起きていても、それはわしらには関係ない。わしらが生きている場所が今までと同じように平和ならそれでいい。
わしらには敵がいないが、それは自分の分を守ってきたからです。絶対無理をしない。
そこで、若い者がこれ以上まちがったことをしないように、あなたたちの考えを聞きたいと思ってきてもらいました。
まだ、こんなことをするには若い者の一部です。しかし、早く手を打たなければならないと、取りかえしがつかなくなる。
わしが出ていってもすむものならそうするが、それですむものではないと子供たちが言います。
幸い、あなたたちは広い世界を見てきておられると聞いています。わしらの場所を以前と同じようにするためにはどうしたらいいか、知恵を貸してくださらんか」パパは、丁寧にリゲルとオリオンに頭を下げた。ママや兄たち、他の者も頭を下げた。
「わかりました。早速帰ってご依頼されたことを伝えます。そして、答えをもってきます」
「よろしくお願いします」パパはそう言うと、オリオンのほうに向い、「あなたは体も小さいし、背中に大きな傷をもっておられる。それなのに、どんな敵がおるやもしれぬ世界に行かれても怖くないのか?」と聞いた。
「いや、みんなの後をおいかけているだけです」オリオンは、どぎまぎしながら答えた。
リゲルは、「それじゃ、また」と言って、その場を離れた。
「オリオン、どう思う?」
「お兄さんたちが見てきたことが本当なら、クラーケンがいるときと同じことが起きている」
「そうだな。それが狙いで、あちこちで演説をして手先を作っているのだろう」
「それにしても、パパというものはすごいね、家族を守るために必死なんだ」
オリオンは遠い昔のことを思いだそうとした。

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