シーラじいさん見聞録

   

内側にある第二門に着くと、サメの門番たちが、いつでも戦えるように身構えた。
しかし、第一門のウミヘビの門番や改革委員会のメンバーたちであることがわかり、警戒を解いた。
「その後どうだ?」ウミヘビの門番の幹部が聞いた。
「第一門のほうからあわててやってくる者がいないから、今のところ変わりがないようだ」
同等の地位のサメの門番が答えた。
その後、後から来た二人の長老を加えた一行は第一門に向った。はやりこちらのほうが緊迫した雰囲気に包まれているようだった。
近づくと、門番だけでなく、見回り人も大勢集っていた。
一行は、ウミヘビの門番から、そのときの様子を聞いていたので、すぐに門の外を見てまわった。
もちろん、クラーケンの部下はどこにもいなく、静まりかえっていた。
改革委員会のメンバーは、クラーケンの部下は実際どのくらいの大きさだったのか、背後から近づいた門番に話を聞くことにした。
第一門の幹部が合図をすると、整列している門番の中から、一人の門番が体をくねらせながらあらわれた。まだ青年のようだ。
長老の一人が、「よく勇気を出してくれたな」とねぎらった。
「ボス以外で、あれほど大きな者を見たことありませんでしたが、何とかしなくてはと思い、無我夢中でした。
やつらは大きいので、後ろへ回ろうと思い、できるだけ下に潜ってから、一気に近づきました。
近づいている間に、三つの影があることがわかりましたので、門から一番離れている者の横っ腹から、徐々に頭のほうに近づきました。
やつらはじっとしていました。私もなるべく動きを抑えながら近づきました。
体をくねらせない苦痛と緊張で心臓が飛びだしだしそうでした」
「やつらは、門のほうをじっと見ていたのだな?」
「そのようでした。頭を少し下にしてじっとしていましたから。
しばらくしてから、互いに顔を見まわしてうなずきました。それから、体をぐっと上に向けました。
私の体は、そのまま上に引っぱられていき、自由になるためにはかなりの時間がかかりましたが、あわててみんなのいる場所に戻りました」
「どのくらいの大きさだったのか?」長老はさらに聞いた。
「頭の部分まで、私の7,8倍はあったように思います」
「7,8倍か!」
門番は屈強な者が集められている。その青年も2メートルはあるから、クラーケンの部下は15メートルを越す大きさだったことになる。
一行は息を飲んだ。大きいということは聞いていたが、「海の中の海」の門番が、しかも、間近で見た証言は反駁のしようがなかったからだ。
そして、誰の頭にも、いよいよ来たか。しかし、なぜここがわかったのだ。また、どうしてすぐに攻めてこなかったのだという疑念が次々浮んだ。
そのとき、見回り人の幹部が帰ってきた。オリオンを指導していた者だ。「海の中の海」で誰もが頼りにしていた。一行は、幹部を取りかこんだ。
開放をするにあたって一番大事なことは、敵を紛れこませないことだというのが、「海の中の海」の認識だったので、幹部は、その責任者として、「海の中の海」に向う道の入口で警戒していた。
しかし、クラーケンは、そこを通らずに門に近づいたのだ。
幹部は、緊急事態を聞き、すぐに戻ってきたが、その間も、そのことをずっと考えていた。
いつも何事にも動じる様子がないのに、今は沈鬱な表情をして、第一門に詰めている見回り人から、報告を受けていた。
報告が終ると、長老の一人が、「どうしたものか」と聞いた。
「見回り人全員は、今後外に出ないで、第一門で警戒します。長老以下全員は、なるべく狭い場所に避難するようにしてください」と、今後の対応を述べた。
「避難している者が大勢いるが」また長老の一人が聞いた。
「事情を話して、すぐに出ていくように言ってくれませんか?」
「了解した。すぐにそのようにする」
一行はすぐにもどり、自分の任務についた。
幹部の部下が、すぐに見回り人を第一門に集める体制を取った。そして、見回り人の三分の一と訓練生は第二門を警戒することになった。
避難していた者に、今日の出来事が伝えられた。
「ここはとても広いが、巨大な者が入ってくると、子供たちや病人は逃げることができない」と聞くと、その表情には、一様に不安と恐怖が戻っていた。
オリオンを見るといつも集ってきた子供たちも出ていくようになった。
第二門にいるオリオンを見つけると、オリオンに近づこうとしたが、「また会えるよ」という言葉をかけると、ようやく納得して、家族の元に戻っていった。
混乱が起きているので、迷子になると、自分のように家族と離れ離れになると心配したのだ。それでも、ふりかえりふりかえりしながら出ていくのだった。
リゲルは第一門を警戒することになった。休憩をするために戻るとき、オリオンが一人でいるとわかるとすぐに近づいてきた。
「オリオン、いよいよだな」リゲルがささやいた。
「やつらは、何をするつもりだろう?」オリオンも小さな声で答えた。
「よくわからないが、幹部がやっつけてくれるさ。おれたちは幹部にどこまでもついていく」リゲルはきっぱりと言った。
「ぼくもそうしたいよ」オリオンはうらやましそうに言った。
「ところで、訓練生全員を見回り人に昇格させるそうだな」
「ほんとか!間に合った」オリオンは叫んだ。いよいよ「海の中の海」のために働けるのだという思いが一気に噴きだしたのだ。
リゲルは、「まだ黙っていろよ」と言って離れていった。

 -