シーラじいさん見聞録

   

あちこちからそちらに急いでいるのが見えた。「何かったのか」とオリオンとペリセウスも向った。
大勢集っているので前が見えない。なんとか間をくぐりぬけて前に出ると、門番たちが何かを囲んでいた。その中から、「どうして、おれたちを入れないんだ」という怒鳴り声が聞こえたかと思うと、門番たちにぶつかったようだ。
隙間ができると、サメが出てくるのが見えた。5,6頭はいるようだった。もちろんここにいる者ではない。
「だめだ」、「これ以上進むな」という門番たちの声が聞こえた。
オリオンたちも、その声を合図に、サメたちを押しもどした。
そのとき、大きな波が下からもちあがった。潜った者を見回り人たちが追いだそうとしているのだろう。
加勢も加わって、ようやく侵入者たちを押さえこむことができたようだ。
「おまえたちはここに入ることが認められていないので、すぐに出ていかなければならない」見回り人の幹部が叫んだ。
しかし、サメたちは、まだ抵抗をしているようだ。見回り人たちの体にぐっと力が入るのが見えた。その後ろにいる者も、もう一度構えた。しかし、侵入者の声が聞こえた。
「みんな認められているではないか」前より冷静になっているようだが、まだ脅かすような調子だった。
「おまえたちはどこも悪くない。ここに入ることが認められている者は、けがや病気で弱っている者ばかりだ。そして、けがや病気が治ればすぐに出ていかなければならない」
「おれたちも腹がすいている。食料がなくなった」
「おまえたちは大きくて、力もある。自分で探すことだ」
たとえ侵入者が10頭いても、見回り人たちは力ずくで追いだすことはできるだろうが、今は納得させて、自ら出ていかすべきだと考えているのだろうかとオリオンは思った。
サメたちは、それに乗じて入ろうとしているようだ。
しかし、それには答えず、まだ中に入ろうとしていた。
そのとき、オリオンは、横にいたペリセウスが動くのを感じた。すると、部下たちも、その後に続いた。オリオンも、思わず追っていった。
「おまえたち、いい加減にしろ」という声が響いた。ペリセウスだ。
一瞬静かになった。「おまえは誰だ」という声が聞こえた。
「仲間がけがをしたので、ここの病院に連れてきたが、おれたちはすぐに出ていく。大勢の者が困っているのがわからないのか」
「おまえには関係ない」
ペリセウスは全く怯まず話しつづけた。
「見たこともないような大きな怪物が、われわれの国に入りこんできて、住民を脅している。
そいつらには、まだ王とも言うべき者に仕えているようだ。その大きさは、ここのボスに勝るとも劣らないという大きさだと聞いている。
その王が姿をあらわせば、この一帯は、誰も住むことができなくなるだろう。
そんなことになれば、おまえたちも生きていけなくなる。
だから、ここが開放されたのだ。ここにいる人たちは、何万年、いや何十万年の間争いを避けて暮らしてきたということだ。
しかし、おれたちの苦しみを見るに見かねて開放してくれたんだ。
恵まれた立場にいるおまえたちも、私利私欲に走るのではなく、今どうすべきか考えてみないか。そうすれば、また元の生活が送れるようになる」
ペリセウスの話は終った。侵入者は何も答えなかった。しばらくすると、オリオンたちの前にいる見回り人の力が抜けていくのがわかった。
やがて、どこからともなく波が次々起きた。ペリセウスへの賞賛の波だ。
「ありがとう」という声が続いた。オリオンが待っていると、ペリセウスが帰ってきた。
その後ろには部下たちだけでなく、今の様子を見ていた者、大人だけでなく、子供たちもついてきていた。
オリオンになついている、あの子供たちもいた。誰もの顔には、小さな体であの凶暴な侵入者たちを追いだすとは、なんと勇気がある者だろうという驚きの表情があった。
オリオンも、「ペリセウス、ありがとう」と声をかけた。
ところが、ペリセウスは、「オリオン、すまなかった」と小さな声で答えた。
「みんな喜んでいるよ」
「いや、おれは、ここの者ではないのに、思わずでしゃばってしまった。部下には、まず状況を判断しろと言っているのに」
「みんな、どうしたらいいのかわからなかったので、きみのお陰で助かったよ」
「それならよかったが。きみは、ここの部隊長をしているのか?」
「いや、ぼくは訓練生だ」
「訓練生?」
「ぼくには、まだ覚えることがいっぱいある」
「そうか」ペリセウスは、少し動揺したようだった。
オリオンは話を変えた。
「シーラじいさんも、このことを聞いたにちがいないから、すぐにやってくると思う」
「いや、ぼくはすぐに帰らなければならない。もう一度仲間を迎えに来たときにお会いする。それでは」
ペリセウスと部下たちは、そういうとすぐに泳ぎだした。まわりを囲んでいた者もあわてて追いかけた。
そのとき、長老の一人がそばに来た。
「今のは、おまえの友だちか?」
「はい、シーラじいさんが助けたことがあります」
「みんな騒いでいたので様子を見ておったが、あの小さな体で、大きな者を説得するとはたいしたものだ」
「そう思います」
「これからは、力だけではどうしようもないかもしれんな」

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