オニロの長い夢 1-66

   

オニロの長い夢

1-66
黒いものはものすごい勢いでこちらに向かってきます。「これは雨雲じゃない!」オニロは、ピストスがさらに大きな声で唸るので、雨除けがついた荷物室に押し込めました。
そして、腰をかがめて、近づいているものを見ました。黒いものは、何十羽という黒い鳥が一つの塊になって飛んでいることが分かりました。
ピストスが怖がるはずだと思って見ていると、その塊から何かが落ちました。すぐに塊から一羽の鳥が海に向かって急降下しました。
他の鳥は、船の上空を飛んで、そのままどこかに向かいました。オニロはピストスのそばにかがんで黒い鳥を見ました。他の鳥も何かを足で挟んでいるようです。
ぐったりしているものや暴れているものがいます。
集団が飛び去ったので、何かが落ちたほうを見ると、黒い鳥は落ちたものを足で挟もうとしていますが、うまくいかないようです。
落ちものが激しく暴れているようです。しばらくそうしていましたが、黒い鳥はあきらめたのかそのまま飛び上がりました。
オニロは、ピストスも挟まれて空を飛んでいる間に暴れて海に落ちたにちがいないと思い、すぐにそこに向かいました。
さっきまでバタバタしていたものは、すでにぐったりして海に浮いているだけです。落ちたものも黒い動物です。どうもクマの子供のようです。
オニロはすぐに海に飛びこんで、クマの子供を持ち上げて船に乗せました。ピストスもクマの子供に近づき、体を懸命に舐めています。
船に上げた時はぐったりしていましたが、すぐに体を拭いたり、舐めたりした結果、しばらくして目を開けました。おどおどした顔でオニロを見ています。まだ体がぶるぶる震えていましたが、それも止まりました。
オニロは、「ピストス。おまえもこんなふうに海に落ちたんだな。しかし、あの鳥は動物をさらってどこに連れていこうとしていたんだろう。食べるためなら運ばなくてもいいはずだ。それとも、子供に食べさすために運んでいるのか。
でも、あんなに大きな鳥が集団で雨雲のようになって飛ぶのは初めて見た。何かあるかもしれないな」オニロの話をピストスも何かあるという顔で聞いていました。
「このクマをどうしようか。まだ子供だから親が心配しているだろう。どこから連れてこられたのだろう。ピストス。何かいい考えがないかな」ピストスはまた首をかしげました。
オニロが空を見上げた時、何とあちこちから、また黒い雲が近づいてくるのに気がつきました。
「オニロ。この子を隠すんだ!」オニロとピストスは急いで子グマを荷物室に運びました。
あちこちから飛んでくる黒い雲から動物の鳴き声が聞こます。まるでカモメが鳴いているようにも聞こえます。
オニロは地獄のような光景だと震えるような気持ちになりましたが、とにかくやり過ごさなければならないと考えて、体をかがめているピストスと子グマを見ました。
ようやく空のどこにも黒い雲も見えなくなりました。オニロは、「大丈夫だ。みんな出ておいで」と声をかけました。ピストスと子グマがおそるおそる出てきました。
連れ去られる動物の泣き叫ぶ声を聞いていたピストスと子グマはどんな気持ちだったのだろうかと思ったオニロは、黒い鳥があらわれない海に行かなければと考えました。
しかし、島があればノソスグラティがないかを調べなければならないという気持ちも浮かびました。
これからどうするかを決めなければ船を出すこともできません。しかし、何か方法はあるはずだという考えも出てきました。
突然ザブンという音がしました。大きな魚が跳ねたのかと思い、気にもしませんでしたが、しばらくすると、子グマが、クークーと鳴いたので、海面を見ました。
すると、何かが泳いでどんどん離れていっています。オニロは、それを見ていましたが、「オニロ!」と叫びました。
しかし、船にピストスはいません。「ピストス。海に落ちたのか!」と叫んで船を出しました。
ピストスの姿は見えなくなっていました。オニロは泣きながら、「ピストス。ピストス」と叫びながらあたりを探しましたが、どこにもいません。
オニロは船を停めて、肩を落として海を見ていました。「誤って海に落ちたのならぼくに助けを求めるはずだ。しかし、ピストスは自ら船から離れていった。何が考えてそんなことをしたのだろう」オニロは胸が張り裂けそうになりました。
どこかでカモメが鳴いています。夕焼けがはじまりました。幸い、もうすぐ暗くなってきます。幸い穏やかな海です。ピストスが帰ってくるかもしれないので、今晩はここで過ごすことにしました。

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