オニロの長い夢 1章78-80

   

オニロの長い夢

1-78
オニロは、あっと声を上げて、すぐ立ち上がりました。そして、「ありがとうございました。全員ここに運ぶことができました」と言って頭を下げました。
若い漁師は、「それはよかった。疲れているんだろう。おれは様子を見に来ただけだからすぐに帰る。おまえが探していたシカも見つかったのか」と聞きました。
「見つかりました。あそこにいる大きなシカです」
「それなら、ゆっくり休め」
「いや。すぐに別の場所に行こうと思っています」オニロは、ここは漁師が魚の様子を見るための場所で、若い漁師が特別に貸してくれたので、早くここを出なくてはならないことは分かっていたからです。
「そのことだが、誰にも邪魔されない場所が近くにある」
「そんな場所があるのですか」
「あることはあるけど、かなり険しい」
「でも、それはありがたいことです。どこにありますか」
「この半島を超えて進めば、広々として海が広がっている。その中に島がいくつかある。一番大きな島だ。そこは絶壁に囲まれているので、人間は誰も行かない。鳥が巣を作っているだけだ。しかし、おまえが言っているような動物をさらうような巨大な鳥ではない。カモメのような鳥だ。そこなら大丈夫だとは思うが、あの崖を登るのは無理かもしれない」とオニロを見ながら言いました。
「いや。行きます。すぐに向かいます」オニロはすぐ答えました。
「分かった。おれも何かできないか考える」若い漁師もオニロを意気に感じたように言いました。
「おまえは助けた動物をどうするんだ」
「家族の元に返したいと思いますが、その前に雲の島に行かなくはなりません」
「まだ用事があるのか」
「実はノソスグラティという薬草を探さなければなりませせん」
「薬草!そんなもの今でなくてもいいだろう」
「ぼくが住んでいた町で疫病が流行って大勢の人が亡くなりました。ぼくのパパやママも同じ日に死んでしまいました。
それを治す薬はノソスグラティからしかできないのです。元々はそれを探すために航海しているのです」
「しかし、あそこにあるということがよく分かったな」
「一緒に航海しているシカが見つけてくれていたんです」オニロはそう言って、干からびたノソスグラティを見せました。
若い漁師はそれを手に取って見ましたが、「他の薬草では作ることはできないのか」と若い漁師は怪訝そうに聞きました。
「この薬草からしかできないのです」
漁師はそれ以上聞きませんでしたが、「何という子供だ。おれもできるだけ助けよう」ともう一度思いました。
漁師が帰ると、オニロは、動物はピストスに任せて、すぐに船を出しました。半島に来た時は夜だったので半島の反対側は見えなかったのですが、広大な海が広がっています。
しかも、ここは雲の島を探している時に通ったはずですが、まったく覚えていませんでした。
見渡すと、5つの島が点在している。漁師は一番大きな島と言っていた。オニロは、明らかに小さい島は行かないようにしました。
大きそうな島は二つありました。そこに向かったのですが、一つはそう高くないようなので、奥に見える島に向かいました。近づくにつれ、かなり高い島だと分かりました。
島のまわりをめぐりましたが、海からすぐに急な岩がそそり立っています。
オニロは、「ここは安全だが、動物を登らせることができるだろうか。船さえ着くことができない」と思いました。
さらに調べていると、「船も止められないが、浅瀬もない。すると岩のすぐそばまで行くことができる」と気づきました。よし!オニロはすぐに引き返しました。

オニロの長い夢

1-79
オニロの頭に浮かんだことがあります。雲の島を探している時、クマのネポスが夜中に崖を登って島を探していたのが分かって驚いたことがあります。
ネポスはかなり大きい動物なのにそんなことができるのです。そして、今はオニロの話を理解しているのです。
自分とピストス、ネポスが力を出し合えばどんな困難でも乗り越えることができるとオニロは思いました。
体中に力がみなぎったオニロは急いで動物が待っている半島に向かいました。作戦は決まりました。
半島に戻ったオニロは、みんなが待っている場所に戻りました。みんなオニロのまわりに集まりました。そこで、ピストスにたくさん木のツルを集めるように言いました。ピストスがみんなにどうするか見せると、それぞれの動物が木に登って噛みきったり、それを口や手で引き下ろしたりしてツルはどんどん集まりました。
次にそれを使って動物を乗せるかごを編むことにしましたが、これはオニロが一人で取り組みました。動物はオニロのまわりに集まって、それをじっと見ていました。
しかし、うまくいきません。何回も繰り返してようやく一つできましたが、もしものために、もう一つ作ることにしました。すると、海に落ちたイノシシがツルをくわえてオニロを助けようとしたのです。
一緒に鳥に運ばれるまでして自分の命を助けてくれたオニロを今度は自分が助けようとしたのかもしれません。
オニロは、そう思うと体が熱くなりました。動物を、言葉もできないかわいそうなもの、だから守らなければらないと思っていたが、そんなことはない。人間と動物は対等なものなのだ。お互いが相手のことを考えて助け合うことができる。そうはっきり分かりました。もちろん、ピストスとは強い友情で結ばれていることはまちがいありませんが。
オニロはそのイノシシに名前をつけようと考えました。しばらくイノシシを見ていると、クレオンという名前が浮かびました。クレオンは家にいる時いつも一緒に遊んでいた友だちの名前です。オニロが木に登っている時ハチに刺されたことがありましたが、オニロが慌てて下りてくると、オニロの顔がみるみるはれてきました。
クレオンはそれを見ると泣きじゃくて心配してくれました。しかし、友だちの中で一番かけっこが早くて、みんなから尊敬されていました。
ぼくがいなくなってクレオンはどう思っているだろうか。ノソスグラティを持って村に帰れば一番喜んでくれるだろう。
オニロはイノシシに、「クレオン。ありがとう」と言いました。イノシシはキョトンとした顔をしていました。
オニロは、船の容量を考えて、ピストスとネポス、そして、子供のクマ2頭とおとなしい中型のウマの3頭を連れていくことにしました。子供のクマが不安がって暴れたりしないように同じクマのネポスに世話をしてもらうのですが、動物を吊り上げている間はネポスに見てもらうのです。
島に着くとき、オニロはもう一つしなければならないことに気がつきました。それは、木の枝にツルをかけるだけでは重い動物を何かも吊り上げる間に切れてしまわないかという心配です。
崖を見上げて少し考えました。それから、船の物置の中を調べました。そこに、皮切れを見つけて、潤滑油を塗りました。
そして、「それではネポス。これをもって崖を登ってくれないか」とツルを渡しました。ネポスはツルを口にくわえて足場を確認しながら崖の上に行きました。
「それをどこかの枝にかけて下に投げてくれ」と頼みました。
オニロはツルを2本とももって崖の上にたどりつきました。
それから、重い動物でも切れないほどの太い枝を見つけて、皮切れを巻きつけました。「ネポス。準備はできたぞ。動物を乗せたツルを船で引っぱる。おまえは動物が着いたらかごから下ろしてくれ。それから、ツルがここから外れないか見ておいてくれ」
ネポスは、「分かりました」というようにオニロを見つめました。「じゃ。頼むぞ」オニロはまたツルを伝って下りました。
まず1頭の子供のクマをかごに乗せました。子供のクマはおとなしくしています。崖の上ではネポスが見ています。オニロはゆっくり船を動かしました。

オニロの長い夢

1-80
オニロは船を動かしながら、かごに乗っている子グマを見ました。もし怖がって暴れたりすると大変なことになります。
しかし子グマは震えているように見えますが、動かずにじっとしています。ようやく崖の上に着きました。もう安心です。大きいクマのネポスがすぐツルを手元に引き寄せ子グマを下ろしました。
うまくいった。すぐにウマ3頭も、1頭ずつ上げました。これで他の動物も大丈夫だと確信しましたが、大人の動物は重いからツルが切れないか不安が残ります。それで、事故が起きないように念には念を入れてツルを確認しようと思いました。
半島に戻りながら、どの順番で運ぼうか考えました。重さのことがあるので、まず大きな動物を運んでオニロ自身の不安をなくそうかと思いましたが、残りの子供の動物を先に運び、小さな動物の不安を先に取り除いたほうがいいと決めました。
大きいものを先に運ぶと、もしツルが切れると再開にするためには多くの時間がかかると思ったからです。
半島に帰ると、すぐに小さな動物を4頭乗せました。シカ1頭とイノシシ1頭、クマ2頭の子供です。最初シカの子供はかなり緊張していて立とうとしませんでしたが、ピストスが優しく寄り添ったおかげでようやく立ち上がりました。
オニロは、「大丈夫だよ。みんな待っているから」と声をかけながら島に着きました。
まずシカの子供をかごに乗せました。船をゆっくり動かしてかごを吊り上げました。そして、ネポスがかごをつかまえました。うまくいきました。他の子供も問題なく崖の上に着きました。オニロはすぐ半島に戻りました。
オニロは休むことなく半島と崖の島を往復しました。そして、最後はクレオンを上げて半島から崖の島への移動は終りました。
巨大な鳥に連れてこられた動物を救い出し、また若い漁師との約束を果たすことができたと思うと、オニロはうれしさがこみあげてきました。しかし、そのままオニロはピストスともに雲の島に行くことにしました。多くの動物はネポスとクレオンが見てくれますし、ノソスグラティかもしれない薬草が見つかったのだから休むわけにはいかなかったのです。
海は春がすみに包まれています。はるか遠くに漁師の船が見えます。あの若い漁師も漁をしているかもしれません。ぼくのことを気にしてくれていたから、いつか会えるだろう。そのときにお礼を言おう。今は雲の島に急ごう。
ようやく雲の中に入りました。顔が冷たくなりました。それに雲が深くてまったく前が見えません。
このまま進んで島のどこかに着けばいいが、島に平行に行けば島に着けない。オニロは自分に慌てるなと言いました。
まず動物を下ろした岩を見つけることだ。とにかく一つでも見つけよう。岩の形はおぼえている。それで島の方向が分かる。オニロは頭の中で順番にするべきことを並べました。
船を止めて様子を見ていると、雲が少し動いているのが分かりました。そのときは、たまに雲が切れて遠くまで見えることを思い出しました。
しばらくすると、遠くまで海が見えます。しかし、島影は見えません。よし。この間に岩を見つけようと思って船を動かしました。
うまい具合に進む方向が徐々に晴れていき、ようやく黒い岩を見つけました。岩を一回りして、島はどの方向か分かりました。雲がまた出てきましたが、その方向に進み、ようやく辿りつきました。
オニロは、今後はどんなことでもよく知っていると思わないでもう一度確認しようと決めました。
船を止めようと思いましたが、前に着いた場所ではなかったので、安全な場所を探して止めることができました。
島に着いて坂道を上っていると、ピストスが何か感じたのか少し急いで登りました。オニロも急いで行くと、ピストスの側に何かいます。クマの子供のクマです。みんな島を離れてから来たようです。
オニロはこの動物をどうしようか考えましたが、ノソスグラティのことがありますので、、「ここで少し待っていてくれないか。用事がすめば、みんなのところに連れていくから」と声をかけました。
クマはおとなしくしています。それを見て、オニロとピストスは先を急ぎました。

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