オニロの長い夢 1-63

   

オニロの長い夢

1-63
オニロは急がしそうに走っていった少年を見送ってから山のほうに向かいました。
島の上には草や木が密生している林がありました。そこにノソスグラティがあるかもしれないと思うと自然と足早になって坂を上りました。
丁寧に探しながら歩き回りました。気をつけないと転倒するほどの草が生えています。とにかくそれらしき草があれば摘むことにしました。それを船に保存することにしました。
夕方になると、漁の仕事を終えた少年が一緒に探してくれました。「おれはミハイルだ。きみはオニロだったな」と急に親しくなりました。
リビアックもそうだったように、ミハイルも海で大人に交じって仕事をしているので、同じ年ごろの子供と話したいのだろうとオニロは思いました。オニロも、ピストスがいるとはいえ、一人ぼっちなのでその気持ちはよくわかりました。
「きみのパパとママは疫病で亡くなったんだろう。きみを残していくのは残念だったと思うよ。おれはまだパパとママがいるけど、パパが病気で仕事ができないんだ。それで、おれは働いているんだ。
親方はおれのことをよく知っているので助かっている。だから、親方を助ける漁師に早くなりたくて、どんな仕事も断らないようにしている。でも、たまには友だちと遊びたいと思うこともあるけど、仕方がないよ」
「ぼくも、急にパパとママが死んでしまったから、何が起きたのかよくわからなかった。葬式がすんだ後しばらくして、ベッドで寝ている時、天井に白いひげのおじいさんが、『今すぐ山を越えて海に行ったら、神様が船を用意しているからそれに乗って、薬草を探しに行け』と言うからすぐに家を出たけど、しばらくして今自分がしていることは夢ではないかと思うようになった。実際に天井に人が出てきて、『こうしろ、ああしろ」なんて言うわけはないもの。でも、いつしか疑うことを止めて、夢が覚めるまでがんばろうと決めたんだ」
「それなら、おれはきみの夢に出ているんだな」
「それともう一つ不思議なことがあるんだ。以前、ミハイルと同じように、ある漁師に助けてもらったことがあるけど、その漁師の奥さんが、『あんたのことを夢に見たよ』と言ったことがあった。話を聞くと、疫病で親が死んだことも、天井のおじいさんのことも夢に出てきたと言っていたんだ。
それを聞いて、自分が誰かの夢に出ているんだと思うと体が固まってしまった。それで、夢は疫病のように伝染するものだろうかと考えたけど分からないままだ」
「その人の夢で、きみが薬草を見つけたのかい?」
「ぼくもそれを聞いたけど、『そこまでは夢を見ていない。あんたがここに来ることは見たけど』と言っていた」
「何回もきみの夢を見るのか」
「そうらしい。でも、ぼくが薬草を見つけたどうか知っていても、わざと言わなかったかもしれないと思った」
「そうだな。結末が分かっていたらきみも困るだろう」とミハイルが笑った。
「きみも今頃は、奥さんの夢に出ているかもしれないよ」
「そうか。でも、おれの将来を誰かに知られたくないよ」二人は、ノソスグラティを探しながら笑いあいました。
オニロは、夜になると船に戻ります。ミハイルは、自分たちの泊まっている家に来るように言いましたが、聞くと、狭い部屋に7,8人がいるようで迷惑をかけるので、船で寝泊まりをしました。
ただ、一人でいると、ピストスのことで胸を絞めつけられそうになりました。「あの黒い鳥から逃げられたら、どこかで生きているはずだ」と思うと、早くこの島で薬草を集めて、探しに行こうという気持ちが高まりました。ミハイルが持ってきてくれた食料を食べて早く寝ました。
翌日も薬草を探しました。今日ぐらいで終われるかもしれません。オニロは崖の上で一休みをすることにしました。遠くを見ていると、カモメが隊列を組んだように飛んできます。いつもは自由に空を飛びまわっているのに、今日はどうしたんだろうと見ていると、海の上には黒いものがいるようです。魚の死体でもあって、それを食べようとしているのかと思っていると、どうも泳いでいるようです。オニロは立ち上がって、それを目を凝らして見ました。

 -