オニロの長い夢1-60
オニロの長い夢
1-60
でっぷり太ったおばさんが出てきて、「リビアック!」と抱きつきました。
二人はそのまま泣いていましたが、ようやく、リビアックは薬草のことを聞いたようで、
ノソスグラティという言葉が聞こえました。「それは何に効く薬だい?」とおばさんが聞くと、リビアックはオニロをおばさんに紹介すると、「どんな病気に効くのかおばさんに説明してくれないか」と言いました。
オニロは、「疫病です」と答えました。おばさんは、「疫病ねえ」と考えましたが、「そんな薬草は聞いたことないねえ。ここらの山にあるのは、「ロイマディ、カタンディ、ラリギアン、オーファルマライなどという名前で、喉や胃、食あたり、リューマチの薬だよ。
とにかく、疫病が治る薬草は知らないね。誰か疫病にかかったのかい」と聞きました。
「ぼくの村ではやっていて、この薬草を煎じて飲めば治ると聞いたので、それを探しているんです」
「それはご苦労なことだね。別の名前で言っているかもしれないから、他の人に聞いてごらん」
二人はおばさんに礼を言ってから、山道に沿って立っている家に行き、同じようにお礼と薬草のことを聞きました。しかし、どこでも同じような答でした。
二人はとぼとぼと坂道を下りました。ピストスもゆっくり歩いています。
オニロは、薬草なんてこの世には一つしかないと思っていたので、どんな名前か聞いた覚えがありましたが、すっかり忘れていました。それに、どんな形をしているかも聞いていません。形を聞いていれば、あちこちで名前がちがっていても、どの薬草が探しているノソスグラティかすぐ分かったはずです。
リビアックは、オニロが悲しそうな顔をしているので、「おれは船のことで迷惑をかけたよ。どんなことがあって、ノソスグラティが見つかるまでおれも探すから」と慰めました。
「船のこと薬草のことは関係ないよ。きみといたから、薬草にはたくさんの種類があり、それぞれ効く病気がちがうことも分かった」
「これからも二人で探せば絶対見つかるよ」
「きみは島の人から、これから立派な漁師になれと言われなじゃないか」
「確かにそう言われた。おばあさんの手紙にもそんなことが買ってあったけど、まず自分の罪を償ってからそうするよ」
「自分の罪って船のことかい。早く漁師になって、お嫁さんをもらうことがおばあさんを喜ばすことだよ。年下のぼくが言うことじゃないけど」二人はようやく笑った。
「正直に言えば、おれもきみと同じように冒険をしたかったんだ。でも、誰からも何かを探してこいと言われなかったので、悪いことをするようになったんだ。人に責任を押しつけるのはいけないことだけどね」
「ぼくも、自分がずっと夢の中にいるような気がする時がある。そんな時は、自分のほおつねるんだ。夢ではないと分かっても、夢の中でまた夢を見ているかもしれないし、また、その夢の中で夢を見ているかもしれないと思うと、もう何も考えられなくなる。
とにかく、ママとパパが死んでしまったことがほんとなのか夢の中のことか知りたいだけだ」
「ぼくがきみと出会ったのはほんとだよ」リビアックは少し遠慮ぎみに言いました。
夕方になり、リビアックは自分の家に泊まるように言いましたが、オニロは舩で寝るほうが慣れている、それにピストスも船のほうがよく寝られるのでと断りました。
実は一人で今後のことを考えたかったのです。どうせ覚める夢であっても、悪夢にならないようにしたかったのです。
この島でもっと薬草のことを学ぶべきか、島の人が言うように疫病を治す薬草がないのなら、すぐに別の島に行って、そこで疫病を治す薬草がないか聞くべきか。オニロは、どちらを選ぼうか決めたかったのです。
しかし、なかなか結論が出ません。夜が明けて、朝焼けがはじまった頃、船の上空に何百羽というカモメが、騒がしく鳴きながら集まってきました。オニロは寝転んでその様子を見ていました。オニロは、「よし。決まった!」と叫びました。
そのとき、リビアックが来ました。「リビアック。ぼくは今から航海に出るよ。きみはここで立派な漁師になるんだ。ノソスグラティを集めて、村に帰ったら必ず戻ってくる。そして、船作りを教えるから。約束する」オニロはそう言うと、リビアックが何か言う前に船を出しました。