ののほん丸の冒険 第1章81~85

   

ののほん丸の冒険

第1章81
「佐々木の動きを見ていると、ご主人を連れ去ったのは、佐々木のグループとは別の組織だということでいいのか。ののほん丸」
「もう一度奥さんにご主人の消息を聞いてきたら、まちがいないと思う」
「テロ組織がいくつも日本にあるのでしょうか」
「よくわかりませんけど、直接敵国を攻撃するテロ組織ではなくて、そういう組織に武器を売りつける会社などがいくつかあるような気がするんです」
「金儲けのために、専門家に武器を研究させるのか」
「そうなんだろうな」
「でも、主人はそんなことをするために大学を辞めたのではないんです。
このままでは地球は住めない星になる。何とか子孫のために元の地球を残すために邪魔されずに研究をしたいと言っていました」
「ミチコさんの叔父さんも同じことを言っておられたようです。そういう善意の研究者の仕事を人殺しの武器に利用しようとするものが世界中にいるような気がします」
「つまり、研究者の取り合いをしているのだな」
「それでは佐々木がどこの会社に属しているのか見つけるのが第一歩です」
「そうです。ご主人や叔父さんが国外に連れだされていないことを祈ります」
「まず佐々木が何回もかけてくるようにもっていくべきだな」しゃかりき丸が得意そうに言った。
「確かにそうだ。まず相手が何を考えているのか知るのが先決だけど」ぼくはそう答えたが、奥さんにプレッシャーを与えていないか心配になったので、それ以上は言わないことにした。
翌日、奥さんの家で朝食を食べているとき、電話が鳴った。三人で顔を見合わせた。しかし、奥さんはすぐに電話に出た。ぼくとしゃかりき丸は聞き耳を立ててじっとしていた。奥さんがこちらを見た。佐々木にちがいない。
すると、奥さんは驚くべきこと言った。「警察から電話があって、主人が見つかりました。しかし、意識がないので入院しています」
「今は面会謝絶なので会うことができないんです。それも言ってくれないんですよ。はい。分かりました」と言って電話が終わった。
ぼくとしゃかりき丸は奥さんを見た。奥さんは、「ということです」と少し笑顔で言った。
「相手は佐々木ですよね。どう言っていましたか」とぼくは聞いた。
「私が見つかったと言ったら、ええっーって驚いていましたね。あの驚きようは信じていると思いますよ。絶対またかけてくると思います」
「そうだ。絶対かけてくる。今頃は慌てふためいているんじゃないのか。しかし、奥さんはうまくうそをつきますね。いや、相手を翻弄しますね」しゃかりき丸は思わず本音を言ってしまったのか顔を赤くした。
「お二人の話を聞いて、頭の中に流れができているからですよ」奥さんは少し恥ずかしそうに言った。
「今度かかってきたらどう言うかですね。ぼくが一つ気がかりなのは佐々木がなぜ驚いたのかです」
「それはご主人が見つかったからじゃないのか」しゃかりき丸はすぐに答えた。
「たぶんそうだろうけど、他の理由があるかもしれない」
「どんな理由があるんだ」
「よくわからないけど、佐々木のほうではご主人がどこにいるか分かっていることも考えられる」
奥さんは話題を変えて、「病院ですね。どの病院に入院しているか決めておかなくては疑われますね」と言った。
「そうですね。たぶん、佐々木は病院まで送りますとか言うはずです。そうなればこっちのものです」
「どうするのですか」
「車にある装置をつけます。そして、東京の仲間が車の行先きを調べてくれるんです」
「そんなことができるんですか」
「これで、ミチコさんも助けました」

ののほん丸の冒険

第1章82
奥さんは、車ににつける追跡機を手に取って見ていた。
しゃかりき丸は、「車の背後に回って見つからないつけるんですよ。
そうすると、東京にいるおれたちの先輩が、今車はどこを走っているか、どこに停まったか教えてくれるんです」と説明した。
「便利なものですね。後はどうつけるかですね」
「おれたちは何回もつけました。ただ、こういう機械があるのはみんな知っていますから、警戒して車を調べるんです。だから、ずっとつけていれば見つかってしまいます。実際そういうことがありました。そうすると、誰かに調べられているとなって、向こうは警戒します。
つまり、目的を達成すれば、すぐに外さなければならないんです」
「なるほど。分かりました」しゃかりき丸が分かりやすく話したので、奥さんは安心してうなずいた。
それから、佐々木がどう出るか遅くまで話しあった。まずどこの病院にするか
ということだった。
「北海道には警察病院はないのですか」とぼくは聞いた。
「多分ないと思います。どうしたらいいですか」
「お家からそう遠くなくて、施設が充実している病院はないですか」
「そうですね。白石区にある札幌病院は、主人の友だちが院長をしていたはずです」
「それは好都合です。もし何か起きても対応してくれるかもしれません」
翌日は佐々木から電話がなかった。それで、ぼくとしゃかりき丸は病院に向かうことにした。
バスを降りると目の前に大きな病院があった。1階の受付は広く、すでに多くの患者がいた。これなら、佐々木が奥さんについてきても、ぼくらに気がつくことはないだろう。
ただ、奥さんがどう動くかはわからないので、病院の内部の様子を覚えることにした。
翌日の昼頃電話がかかってきた。奥さんはすぐに出て、「警察から連絡がありました。『ただ、意識はまだ戻っていませんが顔を見に来てください』とのことです」と答えた。
その後、佐々木の話を聞いて、「はい。わかりました。よろしくお願いします」と言って切った。
奥さんはぼくらを見て、「かかってきましたよ」と言って、少し笑顔になった。「病院名を言うと、『お連れします』と言うので、午前10時に決めました。ののほん丸の話では、午前中は患者が多くいたらしいので、そう言いました」
「それじゃ、おれたちは9時すぐに行っておこう。佐々木が奥さんについていったら、車につけるのは簡単だ」しゃかりき丸も笑顔で言った。
それから、ぼくは、「佐々木がICUなどにもついてきそうなら、『警官が案内してくれるようなので受付で待っていてください』とか言ったほうがいいですよ」と気がついたことを言った。
翌日、ぼくとしゃかりき丸は8時すぎに病院に向かった。病院につくと、バスやタクシーで来た人が次々病院に入っていた。
玄関の前はタクシー乗り場だが、駐車場は建物の左側だが、すでに多くの車が
駐車していた。
念には念を入れてもしそこの駐車場が満杯になれば、予備の駐車場がないかを調べた。建物の裏手にあることがすぐ分かった。
さらに、別の車で来ることも考えられるので、佐々木と奥さんが乗っている車を見つけなくてはならない。
幸い、車は駐車場に入る前に入場券を取るために発券機で止まらなければならないから佐々木の車かどうか確認できる。それに、発券機の反対側に少し広場があるので、そこにいれば見つかることもない。
8時40分になった。ぼくとしゃかりき丸は木の陰から発券機のそばに止まる車を見た。
9時すぎ見たことのあるような車が来た。佐々木だ。後部座席に奥さんがいるようだ。しかし、ぼくは小さな声でしゃかりき丸に叫んだ。「奥さんの横にもう一人男がいる!」

ののほん丸の冒険

第1章83
「ほんとか」しゃかりき丸も目を皿のようにして車の中を見た。「まちがいなく佐々木だな。仲間を連れてきたのか」
「そうだろう。佐々木は奥さんと顔なじみなので話し相手をしているのだな」
「どうしようか」
「とにかく二人で車を見張ろう」
「いや。ののほん丸は病院の中に行ってくれないか」
「大丈夫か」
「おれは大丈夫だ。そして、病院で二人を見張ってくれ。何か起きるかもしれないから」しゃかりき丸はぼくの気持ちを分かっているようだ。
「ありがとう。そうする」
車は駐車場に向かってゆっくり来た。ぼくは急いで病院の建物に急いだ。
まだ朝が早いために受けつけには人は少なかった。100人以上すわれる椅子があるのに、10人ぐらいしかいなかった。すでにそれぞれの科の受付に行ったのだろう。
ぼくは、受付から少し離れた場所におじいさんが一人ですわっているのに気づいてたので、その横にすわった。おじいさんと孫と見られるようにしたのだ。
ときおり玄関がある後ろをそっと見た。4,5分たった頃、奥さんと佐々木が入ってきた。ぼくはおじいさんの陰から二人をじっと見た。
奥さんは緊張しているように見えた。二人は「初診受付」と書いてある場所の近くにすわった。
それから、奥さんは佐々木に何か言うと、一人で受付に向かった。奥さんが受付のスタッフに何か言うと、スタッフは奥に入った。すぐに年輩の男の人と二人で出てきた。
奥さんはその男の人に何か言うと、男の人はどこかに電話した。多分病院内のどこかに連絡しているのだろう。男の人は電話がすむと奥さんに何か話した。
奥さんは佐々木がいる場所に戻って何か言うと、そのままエレベータのところに行った。佐々木も奥さんについていった。エレベータの前には数人の人が待っていた。
しかし、佐々木はエレベータに乗らず、奥さんだけが乗った。佐々木は奥さんがどこで降りるか確認しているようだったが、エレベータは、3階,5階、6階に止まった。
3階にICUがあることは調べていたが、奥さんはそこで降りたのだろうか。
奥さんはここまではうまく佐々木をまいたが、これからどうするのだろうと考えると気が気でなかった。佐々木を見ると誰かと話していた。
20分以上たった。奥さんは降りてこない。ひょっとしてどこかの裏口から病院を出たのか。しゃかりき丸が装置をつけてくれていたら、それはそれでいい。
そう思った時、エレベータの扉が開いて奥さんが出てきた。佐々木がすぐに行った。奥さんと佐々木はまたすわって話をはじめた。
10分ぐらい話をすると二人は立ち上がった。佐々木が何か言った。奥さんが答えると、佐々木一人で出ていった。
ぼくは佐々木が玄関を出たのを確認して、奥さんの斜め後ろにすわった。
奥さんはぼくに気がついたが、前を向いたまま「とにかく終りました」と小さな声で言った。
「受付に行くとき、佐々木がついていこうとしたのでドキッとしました」
「私も困ったと思ったのですが、警察が迎えに来ていると言えばついてこないはずと考えて、そう言ってやりました。
案の定離れていたでしょう。それに、ここの院長は主人の知りあいということを聞いていたので、これも使えると考えていました。ただ、院長を辞めていたら万事休すと思っていたのですが、今も在籍されていて、幸運なことに主人のことで話があると言ったら会ってくれました」
「それを受付で言ったのですね」
「そうです。何もかもうまく行きました」奥さんは初めてぼくのほうをふりかえって笑顔で言った。
「しゃかりき丸はもう来ると思います」とぼくも笑顔で答えた。しゃかりき丸が来たら、奥さんの機転について話してやろうと考えていたが、しゃかりき丸が来ない。もう小一時間たっているのにどうしたのだろう。
だんだん不安になってきた。佐々木の車はもう出ているはずだ。そこで、「ちょっと見てきます」と言って外に出た。しゃかりき丸はいない。
駐車場はほぼ満車になっていたので、すべての車を見ることにした。しかし、佐々木の車は見つけられなかった。
それなら、しゃかりき丸はどこに行ったのだろうか。ぼくは、テツに電話をして、車の追跡が行われているか聞いた。
テツはテントに来ている仲間の専門家に聞いたが、「まだはじまっていないそうだ」と言った。
ぼくは、「分かりました。また後で電話します」と急いで切った。

ののほん丸の冒険

第1章84          
ぼくは、「しゃかりき丸に携帯を渡しておけばよかった」と悔やみながら、奥さんがいるところに戻った。
「どうでしたか」奥さんはぼくを見ると立ち上がって聞いた。
「しゃかりき丸はどこにもいません。車も駐車場にはありませんし、追跡機は作動していないようです」
「それなら、ミチコさんを助けた時のように、トランクに入って追いかけているのでしょうか」
「そうかもしれません。それなら連絡が来るまでしばらくここで待っていましょうか」
ぼくと奥さんは玄関が見える場所でしゃかりき丸を待つことにした。奥さんが言っていたように、うまくトランクに入れたのならいいけど、追跡機をつける時に見つかっていたらまずいなと思った。1時間待っても連絡はなかった。
奥さんも不安そうな顔をしていた。それで、「北海道は広いですから、1時間以上のところに行くかもしれません」ぼくは奥さんに声をかけた。
「そうですね。無事に逃げられたらいいですが」奥さんもうなずいて答えた。
午後2時近くになったので、「とりあえず帰りましょうか。しゃかりき丸はもちろん携帯番号を知っているので、どこからか電話してくると思います」
「大丈夫でしょうか。病院近くにいるということはないですか」
「もしそうなら、すぐに引き返します」
ぼくはもう一度佐々木ともう一人の男に注意しながら、病院の中や外を見て回った。しかし、患者は少なくなっていたし、それにつれて、車は減っていたが、佐々木の車もしゃかりき丸も見つからなかった。
病院前のバス停からバスに乗り、そして電車とまたバス乗り、奥さんの家に戻った。
ぼくは、テツに電話した。しゃかりき丸がいなくなった状況をすべて話した。
テツは、「調子に乗りすぎたな」と言ってから、「車のナンバーはおぼえていたな」と聞いた。
ぼくは、「おぼえています。しかし、今は普通では教えてもらいないようです」と答えた。
テツは、「そうだ。今からみんなと相談するから、明日電話する」と言って切った。
奥さんは心配そうに聞いていたので、ぼくは、「テツが考えてくれていますので大丈夫です。ぼくらはしゃかりき丸からの連絡を待っていましょう」と言った。
奥さんは、「私が勝手なことをしたばっかりに皆様に迷惑をかけてしまいました」と謝った。
「いや。しゃかりき丸は今懸命に任務を遂行しているのでしょう。佐々木たちの正体を突き止めたら、連絡してきますよ」と慰めた。
しかし、一晩待ったが連絡は来なかった。奥さんに心配かけないように不安を顔に出さないように気をつけた。
午前11時携帯が鳴った。ぼくは慌てて電話を取ったが、テツからだった。
「しゃかりき丸から連絡が来たか」と聞いてきた。ぼくは、「まだです」と答えると、「ある弁護士に頼んだが、その番号は盗難届が出ているようだ。だから、そっちの警察に連絡してくれたが、その車も盗まれていたら、すぐには分からないとのことだった」テツは残念そうに言った。
「ありがとうございました。しゃかりき丸からの電話を待っています」ぼくは奥さんの顔を見ながら切った。
「警察に行ってきてもいいですか」と奥さんが言うので、理由を聞くと、「親戚の子供がいなくなったと言えば探してくれると思うのですとのことだった。ぼくは少し考えてから、「人がいなくなるということは大事件ですから、警察も相当聞いてくると思いますから、芝居することはかなりむずかしいと思います」と答えた。
「確かにそうですね。しゃかりき丸がいなくなった状況を信用してくれるか分からないですね」と奥さんは納得してくれた。
「しゃかりき丸からだけでなく、テツからの連絡を少し待ちましょう。それと、佐々木から連絡があるかどうかで今後どうするか決まります」
「私もそれが気になっていました。佐々木から連絡が来ないということはしゃかりき丸が見つかってしまったということですね。今頃、ひどい目にあっていないか心配です」
「そうですね。しかし、しゃかりき丸はすばしっこいですから、そう簡単につかまりませんよ」ぼくは自分にもそう言い聞かせた。

ののほん丸の冒険

第1章85          
電話を待ちながら、毎日これからどうするか二人で話し合った。
奥さんは、こうなったのは自分が悪いと悔やんだが、ぼくは、「そんなことはないですよ。3人で作戦を考えたのですから。それに、しゃかりき丸はピンチになれば余計に闘志を燃やすんですよ。ミチコさんを助けた時もそうでした。だから、そう心配しないでください」と慰めた。
奥さんはうなずいたので、「次からは、失敗したときのことも考えて行動しましょう」と提案した。
翌日から、ときおり奥さんの家に無言電話が回かかってくるようになった。呼びかけたらすぐに切れるそうだ。
「佐々木でしょうか」
「何回もかかるのはおかしいですね。ぼくも、佐々木のような気がしますが、焦っているかもしれないですね。
奥さんから、『主人はICUにいる』と聞いていたのに名前を名乗って電話してこないのは、やはり追跡機を取りつけようとしていたしゃかりき丸を取り押さえたからでしょう。しかも、それが子供だったので何が起きているのか混乱しているのだと思います」
「しゃかりき丸は大丈夫でしょうか」奥さんはまた聞いた。
「しゃかりき丸は問いつめられたでしょうが、あいつのことですから、歩いていたら知らない人に車につけてくれと頼まれたとか答えたはずですよ。
それで、どんなやつに頼まれたのかしつこく聞かれても、しゃかりき丸はぬらりくらり答えたと思います」
「早く帰ってきてほしいです」
「そうですね。すぐに開放されなかったのは少し気がかりですが、佐々木らは、しゃかりき丸の話を聞くしかないので、無茶なことはしないと思います」
「やはり、佐々木も主人を探しているのですね」
「そうでしょう。ぼくもそれをうまく利用できないか考えているんです」
「佐々木はすでに主人は帰ってきているのではないかと疑っていませんか」奥さんは目を輝かせて言った。
「そうかもしれません。家の様子を見に来ているかもしれませんし、研究所に行っているかもしれませんね」
「それじゃ、研究所に行って、隣の事務所の人に聞いてみてはどうでしょうかそれに、みんな心配してくれていましたから」
ぼくらはご主人の研究所に向かった。ビルに近づくとかなり緊張した。大通りを左に曲がるとすぐにビルがあるのだが、車が駐車していないか遠くから確認した。
プレートを盗むぐらいだから、車を盗んでいるかもしれない。だから、覚えている車とちがう車を使っているかもしれないと思ったのだ。
ビルの前に青い車が一台停まっていた。もちろん覚えている車とちがう。
「誰も乗っていないようですね。あの車が行くまで待ちましょうか」
10分後にそのビルから男が出てきて車に乗り込んだ。「佐々木とはちがうようです」
車が走り出してから、ビルに入った。そっと研究所のドアを開けた。奥さんは一つ一つ見たが、以前来た時と変わりがなかった。「誰も入っていないようですね。元に戻したかもしれませんが」
奥さんは、両隣や前の事務所に行き、研究所に誰か来ていなかったか聞いた。
誰も見たことがないという答えだった。もし見かけたら連絡してほしいと頼んで帰ることにした。
帰り道、奥さんはこんなことを言った。札幌病院に行くために佐々木と車に乗っていた時、途中佐々木は運転をしていた男のほうに身体を伸ばして、小さな声で、どこからか連絡がなかったかと聞いたというのだ。
「私は顔を外に向けて、話を聞いていないようにして、一言も逃さないように聞いていました。運転手は、まだ連絡がありませんとか答えていたようですが、
二人も、私を警戒して小さな声で話していたのでよく聞こえませんでした。
肝心の名前はよく聞き取れなかったのですが、なんとなく耳に入りました」
「それはすごいじゃないですか。手掛かりになりますよ」
「数日前にそのことを思いだしましたので、名前を思い出したら言おうと考えていたんですが、まだ出てこないんです」

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