ののほん丸の冒険 第1章76~80
ののほん丸の冒険
第1章76
「自然にふるまってください。何かあれば、ぼくらが親戚の子供が偶然来たというように奥さんを助けますから」
「なるほどね。それじゃ、私は、『あら。来てくれたの。何か用事?』とでも相手をしたらいいんですね」
「そうです。何か急用ができたとか言います。それから、ジェームズ・ミラーの後をつけます」
「それはすごいね。それじゃ、今から家に来てくれませんか」奥さんは乗り気になってきた。
空港から電車やバスを使って2時間ぐらいで家に着いた。古い町並にある二階建ての家だった。
家だけでなく、近所の様子も案内してもらって作戦を練った。
多分、最初から手荒な真似はしないだろうと思って、ぼくが二階で、しゃかりき丸が、応接間の隣の和室にいて話を聞くことになった。
暗くなったので帰ろうとしたが、叔母さんがどうしても泊まってほしいと言うので、泊まらせてもらうことにした。
食事の後も、3人で話をした。奥さんはぼくらのことをとても興味を持ち、ぼくらも自分の生い立ちなどを話した。
しかし、ミチコさんから頼まれている以上、いや、はっきり頼まれたわけではないが期待されている以上奥さんを監禁などから守らなければならないので、常にそれを考えていた。
それで、二階にはふた部屋があり、応接間の上に和室になっていたので、そこの畳を上げることを提案した。応接間の声をはっきり聞くためである。
応接間で二人がすわる場所を確認してどこが一番聞こえるか調べた。また、コップを板に耳をつける方法も試した。奥さんにも手伝ってもpらったが、確かによく聞こえることが分かった。
準備はできたので、明日の午前中に備えて二人で二階のその部屋で寝ることにした。
二人とも緊張してなかなか寝られなかったが、ともかく夜があけた。奥さんも含めて昨日のようには話をしなかった。午前10時になった。3人とも定位置に着いた。
ぼくは二階から通りを見ていた。時々車が通るがそのまま通り過ぎていった。
すると、青いタクシーが家の前で止まった。ぼくは決めていたように、床をどんどん叩いた。
そして、見つからないようにベランダから頭だけを出してした下を見た。
髪の毛は金髪だがかなり頭の薄い外国人が下りてきた。ジェームス・ミラーだろう。スーツ姿で、ショルダーバッグのようなものを持っている。
すぐに門扉のインターホンを押した。1分ほどすると奥さんが出てきて、門扉を開けた。
ミラーは何か言って中に入った。ぼくもベランダから部屋に入ろうとしたとき、家から100メートルぐらいの道に車が停まったことに気づいた。
しかし、偶然止まったのだろうと思って、すぐにベランダから部屋に入り、ガラス窓を閉めた。そして、畳のない床にかがんだ。
しかし、はっきり聞こえない。意識して大きな声を出さないと無理か。ただ、奥さんはかなり大きな声で、しかもゆっくり話しているから、かなり分かる。「ほんとですか。元気ですか」とか「もちろんです」と言っているような気がした。
すると、ご主人は見つかったのか。さらに耳をそばだてたが、何も聞こえなかった。どうしたのかと思っていたら、玄関が開く音がした。
急いで、しかし、注意しながら下を見た。すると、ジェームス・ミラーと奥さんが出てきた。
すると、車が近づいてきた。さっき止まった車にちがいない。ジェームス・ミラーが後部ドアを開けて奥さんを入れた。そして、ジェームス・ミラーも乗り込むと車は走り出した。ぼくは急いで下に下りた。
ののほん丸の冒険
第1章77
ぼくが急いで階段を下りようとすると、しゃかりき丸は階段を上ろうとする直前だった。ぼくはそのまま下りながら、「奥さんは出ていったな」と聞いた。
しゃかりき丸は階段を下りて、「そ、そうなんだ。ミラーが、『ご主人が見つかりました。すぐ行きましょう』と言った。すると、奥さんも、『わかりました』と答えて、慌ててついていった。
おれは親戚の子供として出ていくべきか考えたけど、二人は急いで出ていってしまったんだ」しゃかりき丸は珍しく動揺していた。
「いや。それがほんとなら一件落着だよ」ぼくは慰めた。
「そうであってほしいよ」
「ただ、ミラーがテロリストかもしれないということが引っかかる」
「どうしよう。電話しようか」
「もう少し待とう。ミラーはタクシーで来たが、近くに別の車が停まった。二人が外に出てきた時にその車が家の前まで来て、二人はそれに乗った。
今電話をしたら奥さんに何かあるといけない。ナンバーはおぼえている」
「そんなことがあったのか。ちょっと怪しい動きをしているな」
3時間後の午後12時になっても奥さんから電話がなかったので、こちらから電話をすることになった。しかし、コールをするが奥さんは電話に出ない。
もう少し待とうと思った時、携帯が鳴った。奥さんだった。「奥さん、大丈夫ですか」ぼくは叫んだ。
「すみません。二人がいる間は電話を切っていましたが。先ほど別れたので、電話をオンにしたら、電話をくれたのが分かりました」奥さんは恐縮して言った。
「ご主人は見つかりましたか」ぼくは急いで聞いた。
「それがだめでした。ミラーが、車の中で誰かと電話しました。英語で話していたのでわかりませんでしたが、電話が終わると、『奥さん、大変なことになりました。ご主人が誰かに連れ去られました』と言うのです。
どういうことですかと聞くと、『ご主人は、ヨーロッパで研究をする準備のために、他の研究者と一緒に一時的にある場所にいたのですが、今朝スタッフがいないことに気づきました。他の研究者もどこに行ったか分からないそうです。今スタッフが心当たりのところに連絡していますのちょっと待ってください』と言うものですから、すぐにそこにつれていってくださいと頼みましたが、『今全員出払っているので少し待ってください。それで、研究所に戻られるかもしれないので、そこで待ちましょう』ということで研究所に行くことになりました。
私が主人はどこに行くことになっていたんですかと聞いても、『分からない』と言うので、あなたはその組織にいるんではないですかと聞くと、『そうです。しかし、グループごとに計画が決まっているだけでなく、他のグループに細かいことを話してはならないという規則があります。だから、ご主人がどこに行くか知りませんでした』ミラーは私を心配しているように見えますが、どうも話をはぐらかしている印象をもったので黙っていました。
すると、『きのう奥様とお会いした後、すぐに本部に連絡して、奥様が心配されているから、ご主人から奥様に今後どうするか話をする必要があるから、いったん帰宅させてあげるように言いました。すると、本部からOKが出ました。
そして今向かっていると連絡したら、スタッフはご主人がいなくなったと慌てているので、すぐ調べろと言って電話を切ったところです』と申しわけなさそうな顔をしていましたが、それは困ります。警察に連絡しますから、住所を教えてくださいと頼んでも、どうのこうの言って教えてくれません。
『とりあえず研究所に行ってご主人を待ちましょう。そちらに帰られるかもしれません』と言うので、研究所に行きました」
「電話では相手と何か言っていませんでしたか」
「なにぶん英語なのでよくわかりませんでしたが、ポリスと何回か言っていたかもしれません」
「警察ですか」
「そう聞こえました」
「ミラーは研究所の中をいろいろ見ていました。名刺を見たいんですが」と聞くので、私はここにあまり来たことがないので分かりませんと答えました。
それから、ミラーはいろいろメモをしていましたね。
ミラーはしばらくしてから、『自分もご主人を探してきます。もし何か分かったら佐々木から電話させます』と言って運転役の若い日本人を紹介しました。
佐々木は30才前後です。それまで一言もしゃべりませんでしたが、私の電話番号を聞くと、『何かあればすぐに連絡します』と言うと、二人とも帰りました。それが今です」
「ご主人が見つかればいいのですが、どこまでほんとのことか分かりませんね」ぼくは率直な感想を言うだけだった。
「そうですね。私に黙って外国に行くことなんてありえません」奥さんも半信半疑だった。
「これからぼくらはどうしたらいいですか」
「とりあえず私が帰るまで待っていてください」奥さんは電話を切った。
ののほん丸の冒険
第1章78
奥さんは2時間後に返ってきた。かなり疲れていたが、丁寧にお礼を言ってくれた。
ぼくらが、「どうでしたか」と聞くと、「狐につままれたようでした。
私に誰かよく来ていましたかと聞いたり、二人で研究所の中を夢中で何か探していたりしていましたから主人の居場所を知らないのは演技ではないと思いますが、ミラーが途中でいなくなったのは最初から計画していたことなのか、実際何か起きたからなのかはさっぱりわかりません。
二人で帰った後、もし主人を連れてきてくれるかもわからないと思って、ずっと待っていましたが、佐々木からは連絡がありませんでした」
「それは大変でしたね。ご主人がいるところが分かっていたかどうかもあやしいものですね」とぼくが言うと、しゃかりき丸も、「ミラーが途中でいなくなったのも分からないな」と不思議がった。
「そうなんですよ。電話がかかってきたとき、ミラーと佐々木は慌てて帰りましたね」
「そうですか。緊急の用事ができたのはまちがいないようですね」
そのとき、奥さんは、「お腹がすいたでしょう。今から作りますから、ちょっと待ってください。それから、今晩も泊まっていってください」と言って立ち上がった。
寝る前にも3人で話しあったが、とりあえず佐々木からの電話を待つしかないということになった。
翌朝6時ミチコから電話があった。「テロリストが捕まったそうです。これはミラーではないですか」
ぼくは奥さんをすぐ起こした。朝刊を見ると、確かに交際テロリストが捕まったと報じていた。そこにはユルゲン・ヴォルフというひげ面の男の写真が出ていた。目や鼻はまちがいなくジェームス・ミラーだった。
「ミラーですね。まちがいないわ。すると、きのう電話がかかってきたのは、逃げろという連絡だった可能性がありますね」
「そうかもしれませんね」きのう4時ごろに札幌駅で逮捕したという内容だったのでまちがいないだろう。
男はなぜ日本に来たのか確認するために、警察はしばらく様子を見ていたようだ。
東京から北海道まですぐに飛行機で向かったので、北海道の警察が動いていたが、相手は訓練を受けたテロリストなので、いつの間にか行方が分からなくなった。
しかし、札幌駅で多くの外国人の中にユルゲン・ヴォルフがいるのを警官が見つけて確保したということだ。
しばらく3人とも何も言わなかった。このことはご主人やミチコの叔父さんが見つかることに結びつくのかどうかすぐにわからなかったからだ。
「どうしたらいいのでしょうか」奥さんが聞いた。
「警察に行かれたらどうでしょうか。捕まるまで奥さんと研究所にいたのですから、警察も非常に参考になると思います。それに、佐々木という日本人の存在が出てきたのですから、国内の組織も発見されるかもしれません。もちろんご主人のことも捜査するように頼んだらいいですね」
「そうですね。早速行ってきます。私が帰ってくるまで待っていてくれますか」奥さんは、そう言って警察に向かった。
ぼくはすぐにミチコに電話をしてこちらのことを説明した。「それはいいですね。一網打尽にテロリストが摘発されたらご主人や叔父を助けることができるかもしれません」
「奥さんが帰ってきたらまた電話します」
奥さんは、午後4時前に帰ってきた。疲れているだろうが、少し進展したのかほっとした様子だった。「しばらく時間がかかりましたが話を聞いてくれました。ののほん丸に聞いた車のナンバーも、私が見たと言って教えました。さっそく車を調べるようです。
それから、研究所に行きたいと言うので、パトカーでない車で研究所に行きました。そこで、またミラーが何をしたかを話しました。もちろん佐々木のことも言っています。
後は警察からの連絡を待つだけです。お二人を独り占めしていましたが、今回のことはミチコさんの叔父様とも関係がありそうなので、帰ってあげてください」奥さんは頭を下げた。
ののほん丸の冒険
第1章79
ぼくとしゃかり丸は顔を見合わせた。もし日本でテロリストの組織が見つかれば奥さんのご主人やミチコの叔父さんだけでなく、他の研究者も見つかるかもしれないと思ったのだ。それに備えておじいさんのテントに早く戻ったほうがいいのかもしれない。
「ミチコさんに連絡しますが、もし東京に帰っても、もし何かあればすぐ来ます」
ミチコは、「奥さんの様子を見て判断してください」と言ったが、ぼくらはとりあえず帰ることにした。
その日遅くテントに戻った。テントにはおじいさんとミチコだけでなく、テツとリュウも走って迎えてくれた。
おじいさんは体を起こして、「よく無事で帰ってきたな」と喜んでくれた。
「テロリストが捕まったな」リュウがさっそく聞いてきた。
「そうなんです。これでご主人が見つかればいいですけどね」しゃかりき丸が得意げに言った。
「お前たちはそいつを見たんだろう」
「見ました。おれは戸の隙間から、ののほん丸はベランダからですけど、はっきり顔を見ましたよ。怖そうじゃなかったな。ののほん丸」
「そうですね。奥さんが言っていたとおり、いつも笑顔で優しそうでした」
「それがあいつらの手だ。目立たないようにひっそりと隠れているんだ。でもすごいじゃないか。まるでスパイ映画のようだな」
「奥さんはがんばりましたね」ミチコが言った。
「そうですね。何が起きても慌てなかったですね。テロリストは最初ご主人が見つかったので迎えに行きましょうと言っていましたが、車の中でご主人が行方不明になったという連絡が来たというのですからね」
「それはどうも怪しいな」テツが言った。
「テロリストはいつも人を騙すからな」リュウはテロリストの話が好きだ。
「新聞では新しいことは書いてませんか」ぼくはミチコに聞いた。
「ホテルの新聞を全部見ていますが、新しいことは載っていませんね。捜査は行われているでしょうが。
奥さんが警察に行ったと聞いて、私も、今日叔父のことでもう一度警察に行ってきました」
「どうでしたか」
「奥さんのご主人のことを言ったから、少しは前より話を聞いてくれましたが、国際的な事件ですので、警察庁などからの指示がないと動けないと言っていましたね。『もし指示があればすぐ連絡します』で終わりました」
「他に行方不明の研究者の家族が名乗り出てくれたら、警察も本腰を入れてくれるでしょうね」ぼくはミチコを慰めるしかなかった。
警察はテロリストを送還する前に、日本国内にテロ組織があるかどうかを調べているのはまちがいないだろう。
翌日奥さんから電話があって、警察がもう一度研究所を調べたそうだ。
奥さんが、ジェームス・ミラーと名乗るユルゲン・ヴォルフというテロリストと会ったのは今回が初めてだったが、写真を他の部屋の人に見せると数人の人がまちがいないと答えた。
つまり、ユルゲン・ヴォルフは何らかの目的を持って何回も日本に来ていたのだ。
これはすぐにでも何らかの動きがあるかもしれないとみんなで話し合っていたが、新聞には出ていなかった。
テロリストというものは、リュウが言うとおり、相当訓練を受けていて都合の悪いことは絶対言わないものかもしれない。顔なども整形して別人になることもあるようだ。とにかく今は警察からの連絡を待つしかないのだ。
数日後奥さんから連絡があった。なんとユルゲン・ヴォルフと行動を共にしていた佐々木から連絡があったのだ。
もちろん、奥さんは警察にも佐々木のことは言っていた。ぼくが覚えていた車のナンバーも警察に報告していたが、盗まれたナンバーだったかもしれないが、
佐々木のことも車のことも連絡がなかった。
その佐々木から連絡があったのだ。
「何と言っていましたか」ぼくは慌てて聞いた。「『ご主人は見つかりましたか』と聞くのよ。
思わずユルゲン・ヴォルフというテロリストが捕まったでしょ。ジェームス・ミラーのことよねと聞いたの。佐々木は、『いいえ。違います。ミラーは急用でアメリカに帰りましたよ。
『奥さんが心配でご主人は見つかったか聞いておいてくれ』と言うので、電話しました」と答えたの」ぼくは返事に詰まった。
ののほん丸の冒険
第1章80
まさか、あのジェームス・ミラーがテロリストのユルゲン・ヴォルフと別人なんて、そんなことはありえないだろうと思った。
実際ぼくらも顔を見ているし、新聞に載っていた顔写真は、ひげを取れば同じ顔だ。
それに、ユルゲン・ヴォルフは奥さんの家に来た翌日に札幌駅近くで捕まったのだ。テロリストだから警察が研究所に何回も来て調べたのではなかったのか。
奥さんは何か聞き違いをしているのではないかと疑った。そう思ったが、すぐに佐々木が芝居をしているかもしれないということも思った。
「佐々木は、他に何か言っていましたか」と聞いた。
「それだけ言うと、『またかけます』と言って切りました」とのことだった。
「どうしてこんな電話をかけてきたんでしょうか。ひょっとして何か企んでいるかもしれませんね」
「そうでしょう。私もそんなことを思いました。私のような年寄りは新聞を読んでいないだろうとかまをかけてきたかもしれないと思いました。また、電話をかけてきたら、相手の話に乗って見ましょうか」
「それはおもしろいですね。そうしたら、佐々木の目的がわかるかもしれません。でも、相手が気づいたら危ないことになるかもしれません」
ぼくは、さっそくしゃかりき丸とミチコに奥さんからの電話の内容を伝えた。
二人とも驚いてぼくの顔を見た。「佐々木のほうが次の手を打ってきたかもしれないな」としゃかりき丸が目を大きく開いた。
ミチコは、「奥さんが怖がらずに、佐々木の話に乗ってみますなんて、二人の影響を受けているようですね」と言った。
三日後、また佐々木から電話があった。その後の様子を聞いてきたそうだが、奥さんは、警察から、ご主人らしい人が見つかったが、かなり衰弱していて、今病院にいるという連絡があったと答えたそうだ。
ぼくはそれを聞いて、「すごいことを言いましたね。佐々木はどう言っていましたか」とびっくりして聞いた。
「佐々木はひじょうに驚いていましたね。えっと言ったまましばらく黙っていました。その沈黙の間なんでこんなことを言ってしまったんだろうと後悔しましたが、言ってしまった以上仕方がないと覚悟を決めて、次に佐々木が聞いてくることを予想して待ちました。
案の定、どこで見つかったんですかとか、どこの病院ですかとか聞いてきましたので、警察はまだ捜査していますが、できおるだけ早く連絡しますとだけ言って切りましたよと言ってやりました。
それで、これからどう話を進めていけばいいのかののほん丸に教えてもらおうと思って電話をかけました」
「分かりました。3人で相談してすぐに連絡します」と言って電話を切った。
しゃかりき丸とミチコは体を乗り出してきた。「すごいことになってきたな。奥さんは勇気があるなあ。でも、飛んで火に入る夏の虫になるかもしれないぞ」しゃかりき丸は得意の言葉を放った。
ミチコは、「佐々木はどう思っているんでしょうね」と聞いた。
「佐々木のほうもご主人を探しているのなら、これは朗報と思っているかもしれませんね。そうじゃなければ、テロリストが捕まった後、ご主人をあきらめて電話をかけてくることはないと思うんですが」ぼくは自分の考えを言った。
「これで話が複雑になってきましたね。奥さんは二人を待っているでしょうね」
その言葉にしゃかりき丸が反応した。「とにかく、すぐに札幌に行こう」
ぼくもそう思っていたので、二人は急いで旅支度をしてから、おじいさんに挨拶をして、空港に向かった。
その日の夕方に奥さんの家に着いた。連絡をしていたので、夕食も作っていてた。
ぼくは、「それにしてもすごいことを言いましたね」と笑いながら言った。
「そうでしょう。私も、どうしてこんな嘘をついたのか不思議なんですよ」と
笑顔で答えた。
「でも、まだ何も分からないと答えておけば、相手は何回も電話してきますよ。これはすごい技術だとののほん丸と話していたんです」しゃかりき丸も奥さんを褒めた。
「あまりうれしくないですが」奥さんは照れて言った。
「とにかく、いつ佐々木から連絡が来るかもしれないので3人で打ち合わせをしておきましょう」ぼくは二人に言った。