のほほん丸の冒険 第1章46~50

   

のほほん丸の冒険

第1章46
ぼくは、駐車場ある女の人が乗ってきた車に行き、前部に追跡装置をつけてから、玄関には行かず、外から玄関と反対側のほうに向かった。ドアはあったが自由に出入りできるようになっていた。
しゃかりき丸は、2階と3階の両方を見るというので、玄関を入ったところにある階段を急いで上がった。
ぼくが配置に着いたときには、2階の非常階段に出ていた。しかし、お互い顔を見合わすということもせず、自分の担当の階に集中した。
6個10分だった。物事一つしない。しかし、気が抜けない。6時30分に1階でガチャッと音がして、ドアが開いたようだ。
ぼくはすぐに覗いた。玄関から2番目の部屋からスーツ姿の男が出てきた。かなり若そうだ。これは関係ない人だ。
しばらくすると、2階か3階で音がした。朝なのでよく聞こえる。しゃかりき丸が2階の非常階段のドアをそっと開いた。それからすぐに3階の非常階段に上がった。ドアを開けて確認したが、すぐに非常階段を下りてきたので、どちらも関係ないようだ。
それから、7時前まで動きがなかった。しかし、油断はできない。これから、通勤通学の時間がはじまる。
案の定、一階のドアが開いたようだ。ぼくは気をつけて見たが二部屋から人が出てきた。
玄関に一番近い部屋からは男の人と中学生らしき男の子で、3番目の部屋からは母親らしき女の人と小学生ぐらいの女の子が出てきた。女の人を観察したがぼくが探している人よりは若い。挨拶をして出ていった。
すると、ぼくから一番近い部屋が残ったわけだ。これなら集中しやすい。
チラッと上を見た。しゃかりき丸がドアをそっと開けることがあったがすぐに、ドアを閉めた。
マンションの前の道には車が増えてきた。子供の声も聞こえる。しゃかりき丸が降りてきた。「どうだ?」と聞いた。
「この部屋以外は人が出てきた」ぼくは部屋を指さした。「しかし、この部屋は静まり帰っている」ぼくは小さな声で答えた。
「2階は一部屋。3階は二部屋に動きがない。もう少しがんばろう」と言って2階に上がった。ぼくは耳をそばだてて手前の部屋の様子に集中した。
その時、非常階段を急いで降りる音が聞こえた。もちろんしゃかりき丸だ。
「今出てきた女が怪しい」ぼくらは駐車場のほうに行き建物から覗いた。
「車に乗り込んだ」二人は同時に小さな声で叫んだ。追跡装置をつけた車はすぐに駐車場を出た。
「すぐにトシに連絡する」ぼくはすぐ電話をかけた。トシも、「そうみたいだな。追跡する」と分かっていたようだ。
「どの部屋か分かったか」ぼくは聞いた。
「もちろん。3階の玄関側から2番目だ。だから様子を調べにくいな」
「どうしようか」
「まず正攻法でインターホンを押してみようか」しゃかりき丸が提案した。
ぼくらは3階に行き、インターホンを鳴らしたが、部屋で鳴っている様子はない。
「切られているようだ」
そこで、ぼくは軽くノックをしたが、これにも返答がない。
「そうだ。駐車場の向こうに公園のようなものがあった。あそこに行ってみよう」
確かにあったが、児童公園のような小さな公園だった。まわりには民家が並んでいた。
昼に子供がいるのは怪しまれるかもしれないが、木がかなり生い茂っているので、人目にはつきにくい。とにかくしばらく様子を見ることにした。
公園側の部屋にはカーテンがかかっている。相変わらず人がいるようには見えないが、ぼくら二人とも監禁されていたので、あそこにぼくらが探している女の人がいるなら今何をしたらいいのかと話しあった。
「部屋が屋上でもないし、左右に別の部屋があるけど、ベランダ側の窓から入ることだよ」
「同じ考えだ。夜もう一度来て明かりがついているかどうか見てみよう」

のほほん丸の冒険
 
第1章47
ぼくらは町の様子を見ながら中村橋駅に向かった。おじいさんのテントに戻ってから出直すつもりだったが、トシから連絡が来たらすぐにそれに対応しなければならないので、とりあえず駅に行くことにした。
午前10時を過ぎているので駅に向かうサラリーマンや学生は少なかったが、駅前通りには人が出ていた。
ようやくトシから電話があった。車はやはりぼくが監禁されていたビルに停まったようだ。
「どうしようか」しゃかりき丸が聞いた。
「別のビルに行くのを待とう。今車を追っても新しい情報は出てこないような気がする」
「そうだな。それなら、今のアパートの近くにいたほうがいいな」
「そうだ。あの女は昨夜はずっといたはずだ。あそこに住んでいるのかもしれないが、それをまず確認しなければ」
「しかし、監禁されている人はいるのだろうか。助けを求めているような気配はなかったな」
「そこを重点的に調べよう。ひどいことをされていなかったらいいが」
結局、ここでトシからの連絡を待つことになった。もし車が動いたら、先回りにアパートに行くことにした。
午後5時になった。トシからは2回連絡があったが、車はまったく動いていないというのだ。
「あいつら、ひょっとしてぼくらの裏を掻こうとしているのかもしれないぞ」ぼくが大きな声を出した。
「どういうことだ」しゃかりき丸が聞いた。
「すでに追跡装置を見つけているから、用心してどの車も探しているはずだ。それで、今度の車も装置を見つけて、かなり用心しているはずなので、装置をそのままにしてこっちを撹乱(かくらん)しているのだ」
「そうか。どの車にも装置がいつのまにかついているので、敵は近くにいることがわかったので、わざとつけたままにしているというのか」
「そのとおり」
「それなら、すぐアパートに戻ろう。もし君が探している女の人が監禁されていたら、どこかに連れていくことが考えられる」
ぼくらはアパートまで走った。30分走りつづけてアパートに戻って駐車場を見ると、その場所にはどの車も停まっていなかった。
「君は車を見張っていてくれ。ぼくが3階に言ってくる」
「何をするんだ」
「誰か監禁されていないか調べてくる」ぼくは急いで3階に上がり、女が出てきた部屋の前にいって、新聞受けを開けて中をのぞいた。真っ暗だ。そして、何度もノックをしたが返事はない。
6時前なので誰かが帰ってくる気配があるが、仕方がない。ぼくは、「渡辺さん」と何回も呼んだ。返事はないし、物音もしない。やはり誰もいないのか。
その時、背後から、「どうしたの?」という声が聞こえた。
ぼくは飛び上がるほど驚いて振り返った。女の人がぼくを見ていた。まさかこの部屋の女かと構えたが、「ごめんなさい。このアパートによその人が来ることはあまりないので、何か困っているのかなと思って声をかけたの」
「すみません。この部屋の方ですか」
「いいえ。隣よ」
「そうですか。この部屋に渡辺さんいますか」
「それがわからないの。このアパートは転勤で来ている人が多いようで、お互い干渉しないからね」
ぼくは困って、「誰かいますか」と聞いた。
「あまり気にしたことないけど、夜も明かりがついていないかもしれない。
でも、どうしたの?」隣の女の人の目が光った。

のほほん丸の冒険

第1章47
「ママを探しています」
「家出しちゃったの」
「家出ではないのですが、いなくなったのです」
女の人はこれ以上聞くのは悪いと思ったようで、「いずれ帰ってくるわよ」と慰めるように言ったが、「でも、どうしてここがわかったの」と聞かずにはおれなかったようだ。
ぼくは、これ幸いと話を続けることにした。「ちょっと困っているんです」
女の人はまわりをちらっと見てから、「それならわたしの家に来る」と言った。
玄関に入ると、さらに奥に来るように言われたので、食卓で話をすることになった。
「それは困ったわねえ」と、ジュースを出しながらぼくの顔を見た。
「何かあったのかな」
「学校からから帰るとママがいなくなっていたんです。用心深くて、誰だか確認しないと絶対開けないのに。それから、学校を休んで探しています。
「警察に電話したんでしょう」
「いいえ。していません」
「どうしてすぐに電話しないの」
「そうしたいのですが、ちょっとできない理由があって」
女の人は黙ってぼくを見ていた。ぼくも女の人を見てから話を続けた。
「絶対人に言ってはいけないと言われていたんですが、パパは、ある国際機関で研究しています。何を研究しているのかはよく知らないのですが、人類が滅亡しないためにはどうしても必要な研究だと聞いています。
でも、世界の国は相手の国を破壊して、自分の国だけが生きのびたらいいという考えです。
だから、世界の同じ考えの研究者が集まって研究しています。だから、どこからも怪しまれないように秘密のルートで外国に行きました。
そこはどこかはぼくも、ひょっとしてママも知らないかもしれません。
『見つかったら別の国に行くらしいわ』とママが言っていました。
だから、こちらからパパに連絡できなしし、パパからもほとんど連絡が来ません」
ぼくはまた女の人の顔を見た。ぼくを見ているのだが、目が合っていないようだ。少し刺激が強すぎたかもしれない。
「実はぼくも後をつけられていました。攻撃は最大の防御ですから、ぼくか
ら仕掛けてママを助けようと考えました。
友だちのパパに相談すると、『車に追跡装置をつけたらどこに行くか分かるから』と追跡装置を貸してくれました。するとこのマンションに止まったのです」
「ほんとなの。するとお隣さんが!」女の人は大きな声を上げた。
「いや、それはわかりません」
「2,3回見かけたけど、おとなしそうな女の人だったよ。そんな世界平和とか研究とか関係ないように見えたけど。それにあまりいないような気がするんだけど」
「ぼくも自信がないんですが、早くママを助けたい一念で思い切ってインターホンを押しました」
女の人は、「わたしは何をしたらいい?」と小さな声で聞いた。
「友だちのパパに相談していますが、ここに誰かいるようだったら、ぼくに電話してくれませんか」
「それくらいならわたしにもできるよ。物音がしたらすぐに連絡するから」

「ありがとうございます」ぼくは電話番号を伝えてその家を出た。
しゃかりき丸は、通りで駐車場を見張っていてくれた。「帰ってこないな。しかし、長かったじゃないか」
ぼくは、声をかけたが応答はなかったこと、隣の人がぼくに声をかけたこと、そして、その家で話したことを説明した。
「お隣さんが見張ってくれることになった。これはありがたい」
「一つのきっかけでそこまでできるのは君だけだ。おじいさんは、なぜ君をのほほん丸と名づけたんだろう。
ああ、そうか。ばたばた慌てなさんなということか。それなら、ぼくは反対か」
しゃかりき丸は笑った。
「とにかく帰ろう」ぼくはしゃかりき丸を急がせた。

のほほん丸の冒険

第1章48
テントに帰ると、おじいさんは寝ていたが、テツとリュウが迎えてくれた。
「何かあったか」テツが聞いた。ぼくは、アパートのことを大体話した。
「その人が見張ってくれたらうまくいくんじゃないか。見知らぬ者がうろつくと怪しまれるからな」
「君は知らない人を味方にするのがうまいなあ」とリュウが感心したように言った。
「そうでしょう。うまいこと言うんですよ」しゃかり丸はぼくの顔をにやにや見ながら二人に言った。
「どうするんだい」リュウがすぐに聞いた。
「怪しい部屋の前で『渡辺さん』とか呼んで、隣の人が出てくると、『ママを探しています』と答えたそうですよ」
「それで、何かしてやらなくては思うのか。うまく同情を引くんだな」リュウがにやりと笑った。
「最初からそんなこと考えていませんよ。急に声をかけられたので」ぼくはあわてて言いわけをした。
目が覚めていたらしいおじいさんが、「本人は必死なんだから、おまえたちも手助けしろ」と助け舟を出してくれたので助かった。
とにかく、2台の車は追跡装置を外したらしいので動きがつかめなくなったし、アパートもうろうろできなくなったので、すぐに動けなくなった。
「下手に動くと今までのことが台無しになるぞ」テツが忠告してくれたので、ぼくとしゃかりき丸はおじいさんの世話をして過ごした。
4日目の朝早く電話が鳴った。例のアパートで知りあった村上さんだった。
「ありがとうございます」ぼくはそう言って次を待った。
「さっき、ベランダで洗濯物をほしていると隣の人が別の女の人を連れて車に乗り込んだの。多分運転は男の人のようだったわ」息を切らして話した。
「ほんとですか!女の人はどんな感じでしたか」
「すぐに車が動いたからよくわからなかったの。それに、うつむいていたので顔をよく見えなかったけど、髪の毛は長かった」
「多分ママだと思います」
「ごめんなさい。気がつくのが遅くて追跡装置をつけられなかったの」
「そんなことは気にしないでください」
「でも、慌てて下に下りて車が行く方向を確かめたから」
車は黒色のミニバンで、ナンバーは見てくれていた。それを聞くとぼくが診療所に行くために乗せられた車だった。
車は西の方向を行ったという。それなら、ぼくが監禁されていたビルの方向ではないようだ。
「これしか分からないんだけど」
「いや。十分です。多分村上さんの隣にはママが閉じ込められていたような気がします。無事なことが分かっただけでも安心しました。
あきらめずに探します。また何かあったらよろしくお願いします」
「今度こそ追跡装置をつけるわね」
ぼくは、じっと聞いていた3人に電話の内容を話した。
「何か気配を感じたかもしれないな」
「二人でちょろちょろしたから」
「ののほん丸が言っていたように、女の人がいたのはまちがいないようだ。
「焦るなよ。急いては事を仕損じる、だ。おれたちに何でも言ってくれ」
「そうだ。わざと捕まりにいくのだけはやめたほうがいいぞ。向こうは子供でも今度は容赦しないからな」
ぼくたち4人は長い間話しあった。しかし、待つ以外の方法が見つからなかったので、
これからもお互い気がついたことを提案することになった。
翌日、横に寝ていたしゃかり丸がいなかった。トイレでも行っているのかと思って、おじいさんの世話をしながら待った。
1時間ほどして、テツとリュウが来たので、事情を話すと、リュウが探しにいった。
テツは最近持つようになった携帯電話であちこち連絡した。
ぼくは胸が押しつぶされそうになった。

のほほん丸の冒険

第1章49
僕が知らない大人もテントを出入りした。おじいさんに挨拶したが、おじいさんは寝たままうなずくだけだった。
それから、テツとリュウと打ち合わせをして出ていった。
テツが一人になると、おじいさんは、「どうじゃ」と聞くことがあった。
「まだ見つかっていませんけど、そう無茶なことはしないでしょう」とテツは答えていた。
「一度懲りているから、同じことはしないじゃろ」
「そう思います。多分例のビルやアパートに行っているんでしょう。仲間がそれとなく探しに行っています。見つけたらすぐ連れもどします」
「よく見てやってくれ」
「わかりました」
その日も見つからなかったようだ。しかし、ぼくはどこにも行くなと言われているので、ここで待っているしかない。
そして、四日目、朝早くテントの出入り口が開く気配があった。体を起こして、そっちを見ると、何としゃかりき丸が入ってきた。
「帰ってきたか」ぼくはすぐに起きて、しゃかり丸を抱きしめた。
おじいさんも気がついて、「よく帰ってきたな」と声をかけた。何が起きてもほとんど起きないおじいさんが体を起こしている。
しゃかりき丸もおじいさんのそばに行き、「心配かけました」と頭を下げた。
「けがはしていないか」
「していません」
「それならゆっくり休め」
しゃかりき丸はぼくのところに戻ってきて、「みんな怒っているだろう」と聞いた。
「怒っていないけど、心配していた」とぼくが答えたとき、入口が開いて誰かが入ってきた。
「しゃかりき丸!」リュウが叫んだ。「どこへ行っていたんだ。心配していたぞ」おじいさんの世話をするために早めに来たのだ。
「すみません」しゃかりき丸は小さくなって答えた。
その時テツも遅れてきた。「テツ!しゃかりき丸が帰っています」リュウがあわてて立ち上がった。
「しゃかりき丸。帰ってきたか。みんなだいぶ探したぞ」テツは冷静に言った。
「すみませんでした」しゃかりき丸はさらに小さくなって謝った。
「ところで、どこへ行っていたんだ。みんな、またあいつらの探りに行っているはずだと言っていたがな」リュウが聞いた。
しゃかりき丸は、ぼくをちらっと見て、「そうです」と答えた。
「やはりな。何か分かったのか」リュウはさらに尋問した。
そのとき、しゃかりき丸の顔が赤くなったのが分かった。これはしゃかりき丸の癖だ。何か自分の思いを話すときはいつもそうなるのだ。
「のほほん丸には悪いことしたんです」
「どういうことだ」
「おれがあのアパートで見張っているとき、4階の通路の角を回ったとき、女とぶつかりそうになったんです。
おれは慌てて下に下りたんですが、その女があの部屋に住んでいるのならぼくの様子から何か感づいたかもしれないと思います。
案の定、その部屋から出て行ったようですから、まちがいなくおれの責任です。それで、責任を取ろうと思ったんです」
「それで、あちこちのビルにいたんだな」リュウが聞いた。
「そうです」
「それでどうなったんだ」
「ののほん丸が監禁されていたビルにアパートで見た車が停まっていました。
それで、昔悪さしていた時に覚えた技術でトランクを開けて中に入り込みました。
「技術か。しかし、トランクを開けられたときはどうするつもりだったんだ」
「まあ。そこはイチかバチかで。うまくいかないときもありますよ」
「こいつ。調子に乗ってきたぜ」
「1時間ほどすると、人の気配がして誰か乗ってきました。咳払いで女だと分かりました。
大きな声でラジオがかかっていたので、ごそごそしても大丈夫でしたが、トランクが開かないように持っているのは疲れた」
ぼくらは身を乗り出して、ますます顔を赤くしたしゃかりき丸の話を待った。

のほほん丸の冒険

第1章50
「そのまま1時間ぐらい走ったかな。最後はかなり坂道を上っていきましたね。
トランクの中で転がりそうになったので必死に押さえたものだから、今も腕の筋肉が痛くてしょうがない」
「着いたのか」
「着きました。着きました。ここで見つかるとみんな水の泡だから、トランクから出るタイミングを考えました。
エンジンを切ると音に気づかれるし、バックで駐車するのなら、後ろを見ないか心配しましたが、幸いそのまま車が停まったので、トランクを少し開けて転がりでました。そして、トランクをそっと閉めて無我夢中で逃げました。外は真っ暗だったのがよかった」
「やはり山だったのか」
「そうです。あとで分かったのですが、別荘地とゆうやつですね。あちこちにすごい家が建っていましたよ。家と家の間は林になっていたので、隠れるのにはもってこいでした」
「それから」
「木の陰から、車が停まった家を見ましたけど、シーンとしていましたから、うまく行ったなと思いました。
しかし、この家が単なる知り合いの家だったら仕方がないので、何とか家の中を調べたいと思ってゆっくり近づきましたが、監視カメラを見つけて慌てて隠れましたが、木に登って覗いてやろうと思いました」
「それはいい考えだ。見えたか」
「見えました。あいつらがいましたよ。おれを監禁したやつとのほほん丸を監禁したやつ。そして女。多分運転していた女でしょう」
「そこがアジトなのか。どんな様子だった」
「慣れているような感じでした。3人とも自分の家のように動いていましたから。何か飲むながら話していましたね。もちろん内容はわからないけど」
「すると、そこにののほん丸が探している女の人がいるのか」
「それはわからないままです。二階建てで部屋はかなりあるようでしたが、みんながいる部屋以外は雨戸がしてあったもので」
4人は黙ったが、しゃかりき丸はぼくをちらっと見た。しゃかりき丸が何を言いたいのかよくわかった。
しばらくして、テツが、「お前はずっといたのか」と聞いた。
「もちろん。時計がないんで時間はわからなかったが、朝までいる覚悟でした。
でも、あたりは暗くて静まりかえっていたが、ホーホーと鳴くやつがいて、気味悪かったですね」
「フクロウだな。何か動きはあったのか」
「それから1時間ほどして、車が1台出ました。ふいに横から出たので誰が乗っているのか分かりませんでした。
おれが乗ってきたのは停まったままですから、女とは違うでしょう。どうしようかと考えていたら、明かりが消えたので木から降りました。
家のまわりには明かりとカメラがあるので近づけないのでお手上げです。
ここにのほほん丸がいたらどうするだろうかと考えましたよ」
「いや。よくやったよ。なあ、ののほん丸」テツが慰めた。
「よく帰ってくれましたよ。今度監禁されたらと思うとぼくにはできません」とぼくは率直に答えた。
「こんなことはみんなののほん丸に教えてもらったことだけどね。
とにかく朝まで見張ることにしました」
「動きはあったのか」
「まったく動きはなかったし、腹がへったのと眠たいので出直すことにしました。すみません」
「おまえのおかげでアジトらしきものが見つかった。でも、よく帰れたな」
「夜が少し明けてきたのでとにかく歩こうと思いました。1時間ほど歩くと大きな道に出ました。多分ここを歩いていけば町に出るだろうと思って歩きました。
でも、下っていけばまた上りでずっと山の中ですよ。途中疲れて歩けなくなったので少し休んで、また歩くということを続けていました。
ときおり途中何台か車と出会いましたが、誰も止まってくれません。ようやくトラックが止まってくれたときは泣きそうになりましたね」
「乗せてもらったのか」
「そうです。別荘で親とけんかして先に家に帰ると言って出たのですが、財布を忘れたのでバスにも乗れないと言うと駅まで送ろうと言ってくれました」
「ののほん丸のようだな」
「まあね。途中食堂でめしをごちそうしてくれて、向こうの都合があって八王子駅まで送ってくれました」

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