オニロの長い夢 1-62

   

オニロの長い夢

1-62
ただ、島はどこまでも砂浜が続いています。あちこちに大きなカメがいます。道案内しれくれたカメもどこかにいるのかとオニロは思いました。
しかし、砂浜では船を隠すことができません。それなら、島の反対側を見てみようかと準備をしていると、「おーい待て!」と叫ぶ声が聞こえました。オニロが顔を上げると、砂浜の向こうから男が走ってきます。
オニロは準備を止めて男を見ました。かなり若そうです。男は息を切らしながら、「ここで何をしているんだ」と聞きました。
オニロは、「船を止めようとしたんですが、止めるところがないので、島の反対側に行こうとしていました」
男は、「まさか亀を取っていたんではないだろうな」と言って、船の中を見ました。
「とんでもない。あちこちの島を回って薬草を探しているんです」
「薬草?おまえは子供じゃないか。誰かに頼まれたのか。薬にするためにカメを取っていく者がいる」
「ノソスグラティという薬草を探しているだけです」
「そんな名前の薬草は聞いたことがない」男はオニロを上から下まで見ていましたが、「おまえ何才だ」と聞きました。
「10才です」
「誰かと来ているのか」
「いいえ。ぼく一人です」
「一人で船を操縦できるのか」
「まだ十分ではありませんが、だいぶ慣れました」
若い男はオニロをじっと見ていましたが、「この島で薬草を探したいのだな」と聞きました。
オニロがうなずくと、「分かった。しかし、この島に上陸できるかどうかはおれには決められない。親方に話してやるからついてこい。ただし、おれたちの港は島の反対側にあるから、おれをおまえの船に乗せてくれ。案内するから」と言ったので、オニロは急いで船を出しました。
男は船に乗ると、中を珍しそうに見ていましたが、「すごい船だな。親の船か?」と聞きました。
「いいえ。自分で作りました」とオニロが答えると、「ええっ。おまえが作ったのか!」と飛び上がるように驚きました。「船大工でも一人前になるのは何十年もかかるんだぜ」
「何回も嵐で壊れましたので、その都度作ったので、だんだん分かってきました。ほとんど海で拾ったもので作っています」男はそんなことがあるのかという顔で、オニロを見ました。
そのまま島を回って進みましたが、男は、「ここからは少し沖のほう行け。しばらく浅瀬が続いている」とか「向こうに見えている船がおれたちの仲間が漁をしている船だ」などとずっと話しかけてきました。
また、「おれたちは夏場だけここで漁するんだ。秋になれば家に帰って野良仕事をする」と言いました。確かリビアックもそんな話をしていたことを思い出しました。
さらに、「カメはおれたちの守り神なんだ。だから島からカメから消えないように気をつけているんだ。そんなことになったら、魚が取れなくなるからな。
産卵の時はカメが多く集まるけど、それをねらって盗みに来るやつがいる。卵だけなく、カメも食べるらしい。甲羅も飾りものに使うようだ。
それで、おれたちはカメが盗まれないように用心している。若いものが、当番で砂浜を見張ることにしている」
それで、自分はカメ泥棒ではないかと疑われたのかとオニロは納得しました。
「向こうに船が出入りしているところがあるだろう。あそこが港だ」と男が指さしました。
「分かりました」オニロはそう言うと少し沖に出てから港に入ることにしました。
風がきつくなってきたので、少し手間取りましたが、何とか言われる場所に船を止めることができました。
「操縦もうまいじゃないか。完璧だな。親分がいると思うから、おれが話してくるから、船で待っていてくれ」若い男はそう言うと、小屋のような建物に向かいました。
しばらくすると、若い男と老人が出てきました。若い男は老人にオニロの船を見せて、何か説明しました。
老人も船を触ったりして話を聞いていました。それから、「今聞いたが、一人で薬草を探しに来ているようだな。
そういうことなら、島に上がってもかまわない。わしらは漁師だから、薬草のことは分からないから、気がすむまで探したらいい」と言って建物に戻りました。
若い男は、「それじゃ、船から上がればいい。手伝いたいけど、今から親方と漁に行かなければならない」
「ぼくは一人で探すように言われています」
「誰に言われているんだ」
「神様です」
「そうか。それはいいことだ。神様が言われたことはそうまちがいない。親や親方は絶対まちがいがないと言っているが、おれはそこまでは思っていない。後は自分で決めることだ。このことは親にも親方にも内緒だよ。じゃ、また会おう」若い男は建物のほうに走っていきました。

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