オニロの長い夢 1-61

   

オニロの長い夢

1-61
オニロは自分の決意が鈍らないように急いで船を出したのです。それのほうが、漁師になるというリビアックにとってもいいと思いました。
船に集まってきていた何十羽のカモメもついてきました。カモメは島に案内してくれるのではないかという期待もありました。
しかし、どこまでも海が広がっているだけです。オニロは、昔、水平線を海の端と思っていました。今は、それは端ではなく、海はどこまでも続いていると思うようにしてしました。なぜなら、船が水平線から徐々に姿をあらわすのを何回も見たことがあるからです。
リビアックにも、そのことを聞いたことがありますが、「詳しいことは知らないが、たぶん海の端は滝のようになっているはずだ。そんな近くに行けば、海が川のようになって船はどんどん滝までは運ばれて、ついには滝に落ちてしまう。
だから、ゴーゴーというが聞こえたらすぐに戻るんだ」と教えてくれました。
カモメはさらに増えてきました。みんなでぼくを迎えに来ているのだと思い、どの方向から来ているのか注意深く見ました。
突然、カモメが、ものすごい声で鳴いて四方八方に逃げました。オニロは驚いて上を見上げました。
あまりにカモメの数が多いので、何が起きているのか分かりません。その間もカモメは我先に逃げています。
船の上がぽっかり開くと、何とカモメの何倍もある黒い鳥が何羽かカモメを襲っているのが見えました。
オニロは舩にあった予備の板を使って黒い鳥を攻撃しましたが、届きそうにありません。ピストスも大きな声で威嚇しましたが、そんなことは気にせず、カモメを捕まえようとしています。
やがて、4羽の黒い鳥はカモメをくわえてどこかに飛んでいきました。ついてきたカモメも1羽もいなくなりました。逃げているカモメが小さく見えます。海には死んだカモメが数羽とかなりの白い羽が浮いているだけです。
「何が起きたのだろう」と考えることさえできずに、オニロは呆然と立ったままでした。ようやく我に返り、こちらを見上げているピストスを抱きしめ、「あのカモメたちは、ぼくらに島を教えようとしていたのにかわいそうなことになってしまった」と泣きました。
「何をしてうまくいかない」オニロは心底絶望しました。
その時、船を叩く音がしました。オニロは音がするほうを見ました。すると、海面に大きな黒いものがぶつかっています。しばらくすると、それがカメであることが分かりました。こんな大きなカメははじめてです。オニロは、自分が船を動かさないものだからぶつかってきたのだと思いました。
しかし、カメは船の前に出ると、こちらを振り向くではありませんか。それから少し前に進むのです。まるで、ついてこいというようです。オニロは、いつの間にかカメの後を追いかけていました。
1時間ほど、カモメのこともピストスのことも考えることもなく、大きくて黒いカメを見失わないように船を勧めました。
すると、左前方に島影が見えてきました。「島だ!」オニロは意識を失っていた人が急に目覚めたように叫びました。
カメのことを忘れたように一心に島をめざしました。近づくにつれて、そう大きくはないですが、リビアックの島のように木々がたくさんあります。早くノソスグラティを探そうと思いました。
同時に、ピストスのことも頭に浮かびました。「ピストスは絶対食べられたりしない。あいつはぼく以上に頭がいいし、勇気がある。ひょっとして、下に島が見えたので、大きな鳥を振り払って飛びおりたかもしれない。さあ、上陸だ」オニロは止める場所を探しました。

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