雲の上の物語(6)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとはヘンな童話100選」の(21)

「雲の上の物語」(6)
雲がどんどん出てきたので、その中を下りました。しかし、風が吹きあがり、体が持ちあがりそうです。
「柄を上にして、体をもっとすぼめるんだ」遅れそうになるビニール傘に、黒い傘が叫びました。
ビニール傘は、アドバイスどおりにしました。なるほど、そうすると、横に流されることはありますが、どんどん下りることができました。
ようやく二人に追いつきました。ビニール傘は、必死に雲の上に来たのですが、下りることは初めてなので、そんなことがわからなかったのです。
ビニール傘は、黒い傘にお礼を言いました。
「だんだんわかってくるよ。この黒い雲は乱層雲というんだ。地上では、持ち主が、雨雲だとか雪雲だとか言っていたやつだ。温暖前線が来ているんだ」
「温暖前線?」
「勢いのある暖かい空気が、冷たい空気を押しながら進み、その上をゆっくり乗りあげることよ」花柄の傘が説明しました。
「地上では、そろそろぼくらの出番だよ」
「じゃあ、ぼくらは、風下のほうを探したらいいんだ」
「そうそう、きみはできるじゃないか。でも、温暖前線が過ぎると風の向きが反対になるけどね」
「ど、どうして?」ビニール傘に、思わず大きな声で聞きました。
「温暖前線も寒冷前線も、低気圧と一緒に来るからよ」
「えっ、全然わからない!」
「理屈じゃなくて、経験でわかるようになるよ」黒い傘はビニール傘を慰めました。
「それじゃ、探そう。覚悟の自殺のようだったから、そう遠くまで行っていないだろ」
3人は、どんどん下りていきました。途中、3つの傘が浮いていたので、体を閉じて下りていったものを見なかったか聞きました。
「そういえば、通ったような気がするけど、何かあったのか?」
「自殺だったら、そうめずらしいことじゃないだろう」
「人生はケ セラ セラだ。浮いた気分じゃないと浮いておれないよ」
3人は笑いながらどこかへ行きましたが、すぐに雲で見えなくなりました。
ビニール傘たちは、どんどん下りました。雲の下になり、地上が見えてきました。
大都会ではありませんが、落ちついた町が広がっています。背後には丘陵があり、遠くに海が見えます。
ときおり仲間の傘が通っています。ビニール傘は、心がキュッとなりました。
「それじゃ、手分けして探そう」
「えっ、ここから見えるのか?」
「わたしも、最初はそうだったけど、毎日、遠くを見ていたら、だんだん目がよくなったの」
「そうだったな。それじゃ、ぼくらは遠くを探すから、きみは街中を探してくれないか」
3人は分かれて探しました。ビニール傘は、かなり下りて探しました。
通りの植込みや溝にも仲間を見つけましたが、天然山桜材でできた柄ではありません。
しかも、あの無残な姿は相当時間が立っています。ビニール傘は、涙で下が見えなくなりました。
しかし、声を上げて泣きたくなったのは、古新聞の束の横に、自分と同じビニール傘が10本ぐらい括(く)られている様子でした。
「自分も、ああなるところだったんだな。たまたまコンビニの傘立てからもっていかれたけど」
そのとき、「いたよ!」という声が聞こえました。黒い傘でした。
「どこに?」
「海の近くの公園の林の中だ」そちらに急いでいると、花柄の傘も合流しました。
海の前には大きな公園があります。何棟かの建物があって、その後ろに、松の林が広がっていました。
「あそこだ!」黒い傘が、枝に引っかからないように、体をすぼめて下りました。
2人も、後に続きました。

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