シーラじいさん見聞録

   

ペルセウスは急いだ。そして、改革委員会の部屋に飛びこむや、「作戦開始だ。幹部はすでに任務についたぞ!」と叫んだ。
それを聞いた者は色めきだった。いつでも飛びだせるようにしていたが、いよいよそのときが来たかという緊張が走った。見回り人は上官のまわりに集った。
「作戦を開始する。壁の前では敵が来たことを知らないように装うのだ。そして、おれが命令するまでそこを離れるな。いいか」上官の声も緊張していた。
「はい」見回り人たちは、自分を奮いたたせるために大きな声を出した。
そのまわりには、シーラじいさんや改革委員会のメンバーたち、医者たちが集ってきていた。
上官は、「みなさん、作戦が始まりました。海の中の海を守るために全力を尽くします」と挨拶した。
「気をつけていけよ」長老の一人が答えた。他の者もうなずいた。
「それでは出発!」
上官を先頭に見回り人が続いた。
すでにペリセウスは海に戻っていた。ここで気づかれると作戦は台無しになるので、今度は岩に沿ってゆっくり進んだ。そして、戦況を見回りながら、何かあれば伝令として動くのだ。
幹部たちは、左右に分かれてできるだけ深くもぐった。
先に友だちが、リゲルや弱虫に作戦の開始を知らせるために岩に沿って進んだ後、直角に曲がった。
そして、しばらくそのまま行ってから、一気に浮きあがり、ジャンプを繰りかえした。
それに気づいたリゲルは、「作戦開始だ」と叫んだ。一人の見回り人を失くしたが、3人の見回り人とともに、すぐに海の真ん中をめざした。
弱虫も気づき、書記官に声をかけた。
避難所には、書記官人一人と見回り人一人いるだけだったが、見回り人は、大けがをしていて泳ぐことすらできないのだ。
弱虫が「自分がやります」と言ってくれたが、幹部は、もしそれが一時の思いだったらと不安だった。
しかし、任す者がいない。「なるべく離れていろよ。おれの友だちが助けるから」と言葉をかけていた。
その間、弱虫は沈着に作戦について考えていた。
作戦が始まると、一人では気づかれにくいので、書記官に加わってもらうことにしたが、年を取っていることもあり、敵から相当離れた場所で待機するように言っていた。
書記官は、「すまんな。おまえだけに恐い目に合わせて。もう少し若ければ役に立てるのだが」と申しわけなさそうに言った。
「大丈夫です。ぼくの友だちは、敵の顔が目の前に迫ってくるまで耐えなければならないのです。それに比べたら、ぼくは、追いかけてくるのがわかったら逃げるだけですから」と笑顔で答えた。
その頃、幹部は、敵が揃っている方向に進んでからゆっくり浮上した。
三人の敵は、すでに何かが自分たちのほうに向っているのに気づいていた。
それは今までなかった動きであったが、わざわざこちらから向うことはないと判断して、四方を警戒するだけだった。
幹部、リゲルたち、弱虫たちが、同時に敵から200メートルぐらい離れた場所に浮きあがった。
クラーケンの部下たちは、それに気づくと、それぞれが三方向に追いかけはじめた。
幹部は、それを確認して、自分も逃げた。
「作戦どおりだ。うまく逃げてくれよ」幹部は、そう思いながら力を入れた。
敵は、怒りくるっているのがわかるほど近づいてきていた。今にも追いつけそうだと思わせるような距離を保っているからだ。
友だちも、作戦どおり進みはじめたことがわかったが、見回り人、特に弱虫たちに何か起きたらすぐに助けに行ける場所にいた。
もう大丈夫と判断すると、幹部のほうに向った。
壁の前は、静まりかえっていた。遠くの気配を知るために物音を立てないようにしているからだ。オリオンは、心臓が痛いほど打っているのがわかった。誰かに知られるのではないかと心配したほどだ。
そのとき、100メートルほど前にいた上官が戻ってきて、「どうやら近づいてきたようだ」と言った。
確かに遠くで何か動いているように感じる。そして、それがまちがいないと感じられる気配になった。
上官は、「さあ来るぞ」と声をかけた。「絶対壁に打ちあてろ」
全員ぐっと身構えた。どんどん近づいてくる。二つのものだということまでわかるようになった。
前にいるのは幹部だ。その後ろにその何十倍もあるものが近づいてくる。波が高まってきる。それが体を支えきれないほど大きくなってきた。
オリオンは、じっと耐えていた。目の端に、恐怖に耐えられなくなったか壁を離れる者が映ったが、そのとき目の前が真っ暗になった。
「離れろ」という声が聞こえたようだった。オリオンは、力を込めた。
しかし、波が強く体が後ろに吹きとばされた。口をぐっと閉めて水を飲まないようにした。
そのとき、ガツンという音が聞こえた。すぐに次の波が起きた。
しかし、ようやく体を立てなおして元の場所に戻ろうとした。
そこに巨大な塊が見えた。大勢の者がその塊を攻撃している。塊は激しく動き、その都度、振りまわされるが、すぐに戻って襲いかかる。
オリオンも顔をめがけて激しくぶつかる。サメやシャチの見回り人は塊に歯を立てる。
塊からは血が吹きだしているのがわかった。塊の動きが弱くなってきている。
さらに攻撃を続ける。
やがて、「やめろ。すぐに戻れ」という声が聞こえた。仲間が来るのを察知すると、すぐに攻撃を終えるという指示が出ていた。
オリオンたちは、その場を急いで離れた。そして、改革委員会の部屋に飛びこんだ。

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