シーラじいさん見聞録

   

ウミヘビの婆あは、クラーケンの部下たちに気づかれないようにするためか、声をひそめて、「おまえたち!」と声をかけた。
すると、どこからかウミヘビが次々に海面に顔を出した。10の顔があった。かなり年配の者からまだ子供のような者までいた。
本来は海の中で話をするのだろうが、門番の休憩場所で、大きな岩で遮られているが、気づかれないように念には念を入れているようだ。
「早速治療を始めるのじゃ」全員揃ったのを見ると、婆あは弟子たちを命令した。
弟子たちは顔を見合わせた。それを見ていた婆あは、「何をもたもたしているんじゃ。
時間がないことはおまえたちたちもわかっているじゃろ!」と苛立った声を出した。
「いいえ、婆様、時間がないことは重々存じておりますが、どうすればいいのかわしらにわからないんで」年配のウミヘビが落ちついて言った。
「一番古いおまえが何を言っておる。この子供はやつらにぶつかられて、どこかひどく傷めている。だからそこを治すのじゃ」
「それで、どうするんで」年配のウミヘビは、同じように落ち着いている。
「だから、おまえたちが敵を攻撃するときの武器をつかうのじゃ」婆あはさらに苛立った
「もしそんなことをしたら、この子供は死んでしまいませんか」
年配のウミヘビは、さらに冷静に聞いた。その様子から、この年配の弟子がいるから、婆あは安心しているように思えた。
「つべこべ言うんじゃないよ。占いの要諦は、毒をもって毒を制すということじゃ。
己のもってうまれた星が悪いのなら、その星を使って、その者の悪運を取りのぞくのがわしらの仕事じゃな?」
「おっしゃるとおりです」
「敵を攻撃するための武器を、みんなのためのに使うのじゃ」
「わかりました」
年配の弟子は、若い弟子に何かささやくと、5人のウミヘビが、等間隔でオリオンの体に巻きついた。
婆あは、自分が思っていたように準備ができたのを見ると、「これから、わしらが敵に襲われたときに使う電気をかける。
このくらいの人数でも、大人でも殺せるぐらいの強さじゃ。
しかし、おまえが苦しさに耐えかねて意識を失ってしまえば、おまえの体は元に戻らない。
我慢する勇気はあるか?」と聞いた。
オリオンは、「お願いします」ときっぱり答えた。
「わしらの運命はおまえにかかっている。しっかり頼むぞ。よし、電気をかけろ」
弟子たちは、オリオンの体に力を入れた。
強い衝撃が体を襲いはじめた。痙攣が波のように起きた。
激しい痛みで意識が遠のくようだった。オリオンは歯を食いしばった。すると、シーラじいさんの顔が浮んだ。
「シーラじいさん、助けてください」オリオンは言葉にした。
「オリオン、わしはここでいる。しかし、わしは動けないじゃ」シーラじいさんは苦しそうな顔でそう答えるばかりだった。
「シーラじいさん、すぐに行きます」ふっと体が楽になった。
年配のウミヘビが心配そうにオリオンの顔を覗いた。
「よくがんばったな。体を動かしてみろ」
オリオンは体に力を入れようとしたが、どこもぴくっとも動かなかった。
年配のウミヘビは、婆あに向って、「気の毒ですが、これ以上は無理かもしれません」と言った。
婆あは、今度は苛立った様子もなく、しばらく考えていた。
そして「一か八かやってみるとするか」と年配のウミヘビに同意を求めた。
年配のウミヘビは少し躊躇した。
しかし、婆あはすぐに決断した。「今度は頭に電気をかけてみる。全員でやる。前より激しい衝撃になるが受けてみるか?」
オリオンはすぐにうなずいた。
「よし、これが最後じゃ。みんな頼むぞ」
弟子たちは、オリオンの頭にびっしり巻きついたかと思うと、すぐに力を入れた。
同じぐらいの衝撃かと思っていると、頭が割れるほどの衝撃に変わった。
オリオンは、それを押しかえすかのように頭に力を入れた。
そして、シーラじいさんとともに待っているくれる者を一人一人思いうかべた。
その後、行方不明のリゲルや弱虫の顔が浮かんだ。その顔は歪んでいる。
「どうしたんだ?」
「ここが狭くて出られないんだ」
「ぼくが助けにいくからもう少しの辛抱だ」
二人はうなずいた。「ほら、近くまで来ている。もう少しだ」しかし、二人はだんだん小さくなっていった。
「おい、どこへ行くんだ」オリオンは、大きな声で叫んだ。
「終ったぞ」その声に目を開けると、ウミヘビ全員が自分を見ているのがわかった。
「よく辛抱したな。わしらもできるだけのことをした。息を整えて、体を動かしてみろ」
年配のウミヘビは苦しそうに言った。
オリオンは、力を入れた。最初力がすっと消えていくようだったが、何回も力を入れていると、力と体が結びつくのがわかった。しばらくすると、体がゆっくり動いた。
弟子たちから、オッーという声が上がった。
「よく耐えたものじゃ。苦しそうな顔を見ていると、いつやめろと言おうかと考えていた。
しかし、おまえの顔は、だんだん何かに向っていく表情になった。
わしらも電気をかけることは大変な消耗になる。弟子たちはみんな限度いっぱいまでやってくれた」
「ありがとうございます」
オリオンは、まだ大きく息をしながらも、オリオンを心配そうに見ているウミヘビたちに礼を言った。
「やはり頭を打っていたようじゃ。頭は体の中心だからな」婆あはそういった後、少し間を置いて続けた。
「ここの中心はボスじゃが、少し気がかりなことがある」

 -