雲の上の物語(8)
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとはヘンな童話100選」の(26)
「雲の上の物語」(8)
その拍子に体をすぼめたので、今度はそのまま地面に落ちてしまいました。
3人とも、体を広げて、体を落ちつかせると、「びっくりしたなあ」、「天地がひっくりかえったようだった」、「でも、やりとげたのよ!」と成功を喜びました。「でも、みんな、ものすごいあわてぶりだったなあ」とげらげら笑いました。
そのとき、「おーい、助けてくれ」という声が聞こえました。
当の桜材の柄の傘です。遠くの地面にでも倒れているのかと見ましたが、どこにもいません。
「ここだ」と泣きそうな声です。ようやく松の木の枝にいることがわかりました。しかし、枝が重なっていて、その中にすっぽり入ってしまったようです。
「体を揺するんだ」と、黒い傘が、下から叫びました。しかし、枝が重なっているので、思うように動かないようです。
「困ったなあ」黒い傘は、また言いました。「ぼくらが、そこまで上がっても、体を広げたままではどうしようもないなあ」
「それなら、ぼくが上についてから、体をすぼめて、枝の間に入って引っぱろうか」
「でも、きみの体は、松葉でずたずたになるかもしれないぜ」
「少し考えましょう」花柄の傘は2人を落ちつかせました。
3人は、どう助けるか話しあい、風が起きると、交互にその枝まで上がり、励ましつづけました。
そのとき、チュー吉たちが通りかがりました。いつも家が密集した場所にいるので、新鮮な空気を吸うために海辺まで来たのです。「いい仕事をするためには、リフレッシュ休暇が必要だ」というチュー助の考えに賛同したのです。
ここは誰もいないので、ゆっくり歩いていました。ビニール傘が、「きみたち!」と声をかけました。
チュー吉たちは、その声にびっくりして、ばらばらに逃げました。
「きみたちにお願いがあります。こっちに来てください」ビニール傘は、大きな声で言いました。
「誰がしゃべっているんだ」チュー吉たちは、顔を見合わせました。
「ぼくらは傘だ。仲間が松の木の枝に挟まったまま動けないんだ。どうか助けてくれませんか」
「傘?確かにあそこに3本の傘がこっちを見ているようだ」、「風もないのに、がたがた揺れている」みんな、そんなことを言いながら、様子を見ました。
「でも、どうしてしゃべれるの。傘って工業製品だろう?」
ほんとにあの傘がしゃべっているのか、ぼくらが幻想を見ているだけなのか調べてくると言って、チュー吉が1人で動きだしました。
しばらくすると、チュー吉が帰ってきて、「あの傘たちが、まちがいなくしゃべっている。みんなで枝にいる傘を助けようぜ」と言いました。
「それなら、枝を齧ればなんでもない」とチュー作が言いました。
早速、みんなで木に上り、重なった枝を齧りました。半分ぐらい齧ると、みんなでユサユサ揺すりました。すると、枝はボキッと折れて、下に落ちました。それを何回か繰りかえすと、桜材の柄の傘は自由になり、体を広げながら、フワッと下りました。
「今の見たかい?」、「気持ちよさそうだったな」、「傘って、自分で閉じたり広げたりできたっけ?」、「今日(きょうび)、何でもありだよ」、「おれたちだって、そうとう変わったネズミだからね」そんなことを言いながら、木から下りました。
「みんなありがとう。助かりました。これでみんな揃って帰れます」3人の傘はお礼を言いました。
「それはいいけど、どこへ帰るの?」チュー吉が聞きました。
「空へ」
「空へ?」
「ぼくらの国は空にあるのです」
「家じゃなかったのか」
「事情があって地上にいません」
「楽しそうだな」
「それなら、お礼に、空に招待しましょうか」