雲の上の物語(4)
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとはヘンな童話100選」の(19)
「雲の上の物語」(4)
振りむくと、さっき別れた黒い傘が驚いたような顔をしていました。
「ちがうよ。たまたま出会っただけだよ」ビニール傘はあわてて言いました。
「わたしが、友だちになってと頼んだの」ドレスのような模様の傘が笑顔で言いました。
「そうか。それはよかった。初めての場所では、誰でも淋しいからね。友だちがいたら、元気が出る。ぼくも、それで早く帰ってきたんだ」黒い傘も、安心したようでした。
「ありがとう。でも、ぼくは、こんなみすぼらしい格好だから、みんなの標的になると思う」ビニール傘は、淋しそうに言いました。
「確かに新人をいじめたり、昔のことを自慢したりするやつもいるけど、境遇はみんな同じだ」
「彼女も、辛い目にあったらしいね」
「そうだろう。地上でちやほやされていたので、すてられたりすると自暴自棄になるやつが多いのに、ここまで上がってくるのは、根性があるほうだよ。それなら、ここでなかよくすればいいと思うが、そうでもない」
「何かあるの?」
「どんな境遇になっても、自分が一番偉いと思いたがるやつがいる。それで、他のものが恐がるような風に乗るのを自慢する」
ビニール傘は、じっと聞いていました。
「この上にはものすごく強い風が吹いている。さらに上には、偏西風といって、5,6回蛇行すれば、地球を一周するほど早い風が吹いているんだ。
偏西風に乗ったものはいないけど、強い風を自由に操るものがときどきいる。
勇気と技術は賞賛に値するし、実際みんなから一目置かれている。
しかし、それを鼻にかけ、他のものを見下したりするやつもいる。そして、その中でも、自分が一番すぐれていることを証明したくて、偏西風に乗ろうとするのがいる」
「それでどうなった?」
「乗ったかどうかわからない。それっきり帰ってこないからね。もっとも、それで、世の中の均衡が取れているといってもいいけどね。地上でも、雲の上でも」
「なるほど」
「秋になると、台風というのが来る。暴れん坊だけど、偏西風に比べたら、子供みたいなものだよ。
根が子供だから、動きさえわかれば、それを避けることもできるし、それに乗って遊ぶのもおもしろいよ」
「ここにいれば、朝日も夕日もすばらしいわ。夜は夜で星を見てうっとりできる。雨は、わたしたちの十八番(おはこ)だし」彼女も楽しそうに言いました。
「でも、強い風が吹けば、体がビリビリ震えて、いつまでここにいられるか心配になるんだ」ビニール傘は心配そうに言いました。
「雲の種類や動きなんかを徐々に覚えていけば、それを避けることができる。
そして、どうしても無理だとわかると、一度下りたらいいんだよ」
「えっ!そんなことができるのか。ここまで無我夢中で上がってきたから、一度下りたらまた上がれるのだろうか」
「きみがここまで来られたのは、ビギナーズラックという面があったかもしれないが、2回目からは、要領がわかっているから大丈夫だよ。
ぼくらも、何回もそうしている。今は、無意識で飛んでいることができるけど」
「そうだったのか」
「そうだよ。でも、木の枝に引っかかったり、海や川に落ちたりして、上がるのをあきらめるものが多いんだ。要は強い思いがあるかどうかだ」
そのとき、3人のすぐそばを何か黒いものが落ちていきました。