シーラじいさん見聞録

   

リハビリから帰ってきたオリオンが、心配そうな顔でシーラじいさんに言った。
「シーラじいさん、今日、先生同士が話をしている声が聞こえてきたんです。
一人の先生が、『ここはどうなるんだろう』と話しかかると、ぼくの担当の先生が、『もうちょっと話しあう時間があってもよかったかな」と答えました。
しかし、ぼくが近くにいるのに気がつくと、最初に話しかけた先生が、すぐに離れました。
シーラじいさん、何かあったのですか」
シーラじいさんは、すぐに今度の改革のことかもわからないと思ったが、オリオンには言わなかった。
「名前部や分類部に行ったときに聞いてみよう。何かあっても、みんなで話しあって解決しれくれるだろう」とだけ言った。
それから数日立って、改革委員会のリーダーだけがシーラじいさんを訪ねてきた。
まだオリオンは帰ってきていない時間だったが、多分をそれに合わせたのだろう。
いつもなら海面に出るようにしていたが、リーダーは、「ここでお話します」という身振りをした。
そして、「ボスからの言づけがあります」と、少し硬い表情で言った。
「お気づきだと思いますが、私たちの改革を快く思わない連中がいます。
連中が何か言っても、気を悪くなさらないでください。この改革は、私たちの責任で行っていますから、今までのように、遠慮なくご指導をお願いしたいのとのことです」
「わしも、何かあるなという気がしていたが、そうおっしゃってもらえるのなら心強い。何なりと聞いていただきたい」と答えると、リーダーはうなずいた。
「こんなときに申しわけないのだが、わしのほうもお願いすることがある」と切りだした。
「どんなことでもおっしゃってください」と言ったが、少し身構えたようだった。
「少しの間お暇(いとま)をいただきたい。用事がすんだら、すぐに戻ってくるから」
「何かあったのですか」
「わしらが知っている者が困っているようなので、少し様子を見てきてやろうと思ってな」
リーダーの顔色は変わった。
「誰が言ったのですか。それはシーラじいさんを追いだすための策略かもしれません」
「誰からとは言えないが、その内容は作られたものではない」
「そうですか。場所はお分かりなのですか」
「いや、詳しくはわからない」
「それなら、信頼できる者に聞いてみましょう」
シーラじいさんは、ここでペリセウスのことが噂になっていることなどを言わずに、小さなペリセウスが、父親だけでなく、数多くの大人が殺されていくのに怒り、敵を探すために放浪したこと、そして、この世の楽園とも言うべきサンゴ硝が広がる場所で会ったこと、そして、国に連れてかえり、また襲ってきた敵を迎えうったことなどを話した。
「わしが、どんなことも恐れるなと言ったものだから、それが頭から離れなかったようだ。しかし、まだ子供なので、このままでは助からんかもわからん。早く助けてやりたいのじゃ」
「そうでしたか。急がなければなりませんね。すぐに調べます」リーダーは、そう言うと、あわてて帰っていった。
翌日、またオリオンが出かけたころに来た。
「私たちに反感を持つ連中は、見回り人、書記だけでなく、どうやら仲裁人の中にもいるようなので、だれかれなく聞けないのですが、信頼できる者に当たりました」
「どうじゃった」
「見回り人の中で、そういえばと思いだしてくれた者がいたので、場所は、今特定しています。
長老にも報告しましたら、誰かついていくべきだと言ってくれました」
「ありがたい申し出だが、ここの規則に背くわけにはいかない。場所だけ教えてくれるだけでいい」
「わかりました」リーダーは、シーラじいさんの毅然とした態度に納得したように言った。
「それじゃ、明日お知らせできると思います」
シーラじいさんは、リーダーの後姿を見送りながら、明日のうちに向かおうと決めた。
翌日、リーダーは、ペリセウスのいる場所は、シリウス方向に進み、ニンゲンは、「ふたご座」と呼んでいるが、ここでは、その姿から「ボス座」と名づけた星座の尾ビレに当たる方向に向かうということを伝えた。
「そうか。よく教えてくれた」
シーラじいさんは、自分が教えたことが自分に役に立ったこと以上に、みんなが、これを自分たちの知識としていることがうれしかった。
「それじゃ、明日出かけることにする」
「シーラじいさんがでかけたことを知ると、それを利用しようとする連中がいるかもしれないので、私のほうでなんとかしておきます。
オリオンも、担当の医者は私の親友ですから、表向きは体の調子が悪いということにしておきます」
「誠に申しわけない。できるだけ早く帰ってくるつもりじゃ」
その夜、オリオンが帰ってきたとき、今までのことを話し、明日早くここをでかけることを告げた。
「わかりました。ぼくの方は準備万端です。いつでも助けにいけるように、密かにベテルギウスに戦い方を教えてもらっていたんです」
「向こうは、何千といるんだ。軽々しく動くと、ペリセウスを助けられないぞ」
「わかっています。シーラじいさんの指示に従いますよ」
シーラじいさんは、オリオンは、ここで大きく成長したようだ。絶対無事に帰ってこなくてはと思った。
翌朝早く出かけようとすると、改革委員会のメンバーが現れた。

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