ののほん丸の冒険 第1章91~95
ののほん丸の冒険
第1章91
山崎さんが連絡をしてくれた二つのビルの所有者に会いに行った。
一つは西側の交差点にある中岡ビルで、二つ目は東側の交差点にある札幌ビクトリービルだった。
中岡ビルの70代ぐらいの所有者は、「話は聞いている。屋上に避難器具などを入れている小屋があるので、そこを使っていいよ。それにしてもすごいことを考えたんだね」と笑って言ってくれた。
また、札幌ビクトリービルのほうは、管理会社の担当者がいて、「オーナーから、屋上階の8階の通りに面している部屋が開いているのでどうぞ」という返事だった。
どちらのビルも、相手がどの方向に行っても、かなり遠くまで見ることができた。
鍵も預かったので、明日から見張ることにした。
山崎さんの話では週に一回程度研究所に来ているようなので、何回か同じ方向に行ったら、そちらにアジトがある可能性が高いような気がした。
そういうことを話しあって、当分3人で見張ることにした。また、山崎さんの話では午後から来ているようなので、ぼくらも午前11時ごろから見張ることにした。
翌日、中岡ビルのほうをしゃかりき丸と奥さんが、札幌ビクトリービルのほうがぼく一人で見張ることにした。
研究所があるビルは貿易関係の会社が多いので、日本人や外国人などの来客がかなりある。当然、乗用車やタクシーで来るので、油断することができない。
山崎さんも、社長の許可をえて、研究所のあたりをうろつくものがいないか見張り役をしてくれることになった。
これですべての準備が整った。いよいよやつらとの戦争がはじまるのだと思うと身震いが止まらなかった。
ぼくがいる8階の部屋はすべてガラス張りなの遠くまで見ることができた。それに、この道はかなり忙しい。相当な車の数だ。オフィスビルも多いので、短時間の用事なら道に車を止める人も多い。山崎さんが研究所の近くを見張ってくれるが、道に止まる車をすべて見ておかなければならない。
これなら、佐々木が来たら、ぼくがタクシーで追いかけたらと考えたが、それは今晩の反省会での議題とした。
とりあえず今日は今の作戦に全力を尽くした。しかし、動きはなかった。
山崎さんに連絡をして引きあげることにした。
ぼくは、夕飯の時、ぼくは下にいて、あいつらが来たらすぐタクシーで追いかけるのはどうかと聞いた。
奥さんとしゃかりき丸は驚いてぼくを見たが、しばらくは何も言わなかった。
ようやくしゃかりき丸は、「以前おれもそう考えたけど、みんなに迷惑をかけたから、言いだせなかった。それに、あいつらも子供に気をつけることは忘れていないだろう」と言った。
奥さんも、「ある程度の情報が集まったら、もう一度警察に頼んでみようと思っています。だから、私もお二人には絶対危険なことはしてほしくありません」と泣きそうな声で言った。
ぼくは、「わかりました」と答えたが、それ以上のことは言えなかった。
その二日後、いつもと同じように、中岡ビルの屋上には、奥さんとしゃかりき丸、札幌ビクトリービルはぼく一人で見張っていた。
午後1時30分、電話が鳴った。山崎さんから、「来たわよ」という声江をひそめた声が聞こえた。
さっきは止まっている車はなかったはずだと思ってもう一度見たが、やはり車がなかった。
ぼくは、すぐにしゃかりき丸に電話をした。「OK。確かに車はいない。どうしたんだろう」
「迎えに来ると思うが」と言った時、青い車が玄関前に止まった。東向きだ。
研究所のビルから出てきた者が急いで車に乗った。そのまま東に進んだ。ぼくの目の前を通るはずだ。
「タクシーで追いかけていいか」ぼくはこの前の話を思い出して、そう聞いた。
「いや。きみは、そこで車の行先を見ていてくれ。おれにいい考えがある」しゃかりき丸はきっぱりそう言った。
ののほん丸の冒険
第1章92
しゃかりき丸がそこまで言うのならと思って、そのまま車の行先を見ていた。
ぼくがいるビルの交差点を右折して、そのまま北に進んでいった。やがて、大きな交差点を直進して見えなくなった。それを確認してしゃかりき丸に伝えた。しゃかりき丸はどうするのだろうと思いながら急いで1階に下りた。
研究所のビルに向かっていくと、向こうからも、しゃかりき丸と奥さんが急いで帰ってきた。
しゃかりき丸は、「佐々木だったな。運転手も同じやつだったような気がする」と興奮して言った。
ぼくは、「あの二人だ。それで、いい考えはあったのか」と聞いた。
「あった。実は三上さんが、今日、用事があってこのあたりに来ていたんだ。『何か手伝えることがあったら連絡してくれ』と言われていたんだ。それを思い出して、三上さんに電話をすると、『わしが追いかけてやる』と言ってくれたんだ」
「それはすごいな」と感心すると、しゃかりき丸は、「まずは北のほうを探しているはずだ。このあたりの近道もよく知っているから、どこに向かっているか推測して、先回りをするらしい」と言った。
ぼくらは研究所のビルに入って、山崎さんに今のことを報告した。「すごいじゃないの。仲間がどんどん増えるわね」と笑顔で言った。
奥さんは、「迷惑をかけます」と頭を下げたが、「とんでもない。このビルの人はみんな先生のことを心配しています。私たちも何でもしますから」と答えた。
「今軽トラで追いかけているそうですから、連絡を待っています」
「まるで映画のようね。なんだかどきどきしてきた」山崎さんも興奮していた。
ぼくらは、「今日失敗したら明日も来ますのでよろしくお願いします」とお礼を言ってビルを出た。
奥さんは、「三上さんからの連絡を待ちましょう」と言ったので、近くのカフェに行くことにした。
しばらくすると、しゃかりき丸の携帯に三上さんから連絡が来た。しゃかりき丸は電話の内容を話した。
「結局車を見失ったが、かなり追いかけたようだぜ。おれが電話をしてから、10分後には見つけたんだ。
数台後ろにいたそうだが、踏切に引っかかった。多分、幌見峠(ほうみとうげ)だろうと見当をつけて急いで行ったが、見失った。
幌見峠は、実はおれがあいつらの車で拉致されていて逃げ出したところだ。
三上さんの家にも近いので知りあいも多い。それで、青い車を見ていないか聞いてくると言っていた。だから、そのまま家に帰るので、こちらには戻らないち言っていた」
「やはり、アジトは向こうにあるようだね」ぼくが言うと、しゃかりき丸は、
「まちがいないだろう。それで、三上さんはがぜんやる気を出しているよ」と笑顔で答えた。
「ありがとう。それは、明日はゆっくりしましょう」と奥さんが言ったが、しゃかりき丸は、「奥さんは休んでください。おれたちは見張ります」と答えた。
「でも、山崎さんは、週に一回ぐらい来ているそうだと言っていましたから、明日は来ないでしょう」
「そうなんですけど、現場にいると、新しい作戦を思いつくかもしれませんから」しゃかりき丸も乗っていた。
翌日、二人とも札幌ビクトリービルで見張ることにした。すると、昼過ぎ三上さんから電話があった。「今後どうするか考えていたから、それを話したいので、今から行く」ということだった。
30分後、道で待っていると軽トラが止まった。中から、「乗れよ」という声が聞こえた。ぼくらは少し狭いが助手席に乗った。
三上さんは60才ぐらいだった。しゃかりき丸が、「三上さん。ありがとうございます。これはのほほん丸です」と紹介すると、三上さんは思わずぼくを見た。
「おれたちの仲間は本名ではなく、みんなおじいさんがつけてくれた名前を使っているんです。それでぼくはしゃかりき丸と言います」
「それはおもしろい。ののほん丸としゃかりき丸か。それじゃ、二人にわしの計画を話すよ」と言って軽トラを走らせた。
ののほん丸の冒険
第1章93
三上さんは、「少し狭いけど、しばらく我慢してくれ」と言ってぼくらを見た。50代の人で、優しそうな眼をしていた。「この度は、何から何までありがとうございます」とぼくが礼を言うと、三上さんは笑って、「いやいや。しゃかりき丸から聞いていたけど、きみは小さいのに、知恵と勇気があるんだって」と言った。
「とんでもありません。しゃかりき丸が助けてくれるので心強いです」と答えると、「とりあえずわしの考えを言うけど、直すところを言ってくれたらそうするから」今度はぼくが笑った。
しばらくして坂を上って幌見峠に着いた。しゃかりき丸が、「ここ、ここ。ここでおれが逃げだしたところだ」と叫んだ。「よく走って崖を下りたな」と三上さんも改めて驚いた。
坂を下りながら、三上さんは、「しゃかりき丸のことでも分かるように、ここを通ったのはまちがいないだろう。下に降りると大きな交差点がいくつかある。そこで見張っていてほしいんだ。わしは家で待機しているから、連絡をもらったらすぐ追いかける。この案はどうだ?ののほん丸」と聞いてきた。
「すごい作戦だと思います。でも、迷惑をかけます」
「いやいや。しゃかりき丸からきみらがしてきたことを聞いて、おれも冒険をやりたくなったんだよ。子供の時、秘密基地を作って一日中遊んでいたんだ。
あの頃を思い出したんでね。
おっと。次の信号のところの交差点で一人。ここだ。それから、もうちょっと行ったところの交差点で一人で見張ればいいと考えている」
ぼくとしゃかりき丸は二つの交差点の様子を頭に焼きつけた。
「これでいいかな」と三上さんが聞いた。
「はい。一つ質問があるのですが、一つ目の交差点を通過しても、二つ目の交差点を通過しないことがあると思うのですが、その時はどうしたらいいですか」とぼくが聞くと、三上さんはしばらく考えていたら、「そうだな。あのへんの道は分かっているので、早く連絡をもらったら、可能性のある道を先回りしてみる。それと、一つ目の交差点までは大きな道はないので、一つ目の交差点を通過しないことはないと思うよ」
「万が一、相手が一つ目を曲がってもすぐに連絡します」
「そうだね。近道を通ることもあるかもしれないな」
しゃかりき丸も気になることを聞いて、三上さんがどうするか答えた。三上さんも楽しくなってきたのか、「3人で家で話さないか」と提案したが、しゃかりき丸がぼくを見てから、「奥さんが心配しているので、今日は帰ります」と断った。それで、三上さんに札幌駅まで送ってもらうことになった。
奥さんがごちそうを作ってくれていたので、食事をしながら、三上さんのことや作戦のことを話した。
しゃかりき丸が、「奥さんは安全な場所で待っていてください」と言ったものだから、奥さんは、「じゃ。私はお払い箱ですか」と、にやっと笑って言った。
た。
「いや。ぼくらの世話もしてもらっているので」しゃかりき丸は少し慌てた。
「それはありがとう。でも、あなたたちに佐々木が来たということを誰が連絡するの。山崎さんに頼んだのですか」と奥さんはゆっくり言った。
確かにぼくらはそれを忘れていた。しゃかりき丸は、「すみませんでした。これからもお願いします」と頭を下げた。
ぼくも、「三上さんと夢中で作戦を立てていて、これで行けると思ってしまいました。すみませんでした」と謝った。
「いいのよ。二人とも、私のために休まずがんばってくれているのを感謝しています。ちょっと大人げなかったと後悔しています。それで、明日も行くのですか」奥さんも頭を下げた。
「はい。行きます。三上さんもものすごく乗り気で毎日スタンバイするつもりだと言っています」
「私も、みなさんに負けないようにがんばります」
翌日、奥さんは、ぼくの代わりに、札幌ビクトリービルに入る前に研究所のビルに行き、山崎さんに今後の作戦について話をするそうだ。
ぼくとしゃかりき丸は札幌駅からバスに乗り、見張り地点に直行することにした。とりあえず一つ目の交差点はしゃかりき丸が担当して、二つ目をぼくが見張ることにした。
今日は初日なので、どこでどのように見張るかを考えなければならない。交差点で子供が何時間もいることは奇異に思われるのはまちがいないからだ。これは厄介な問題だ。
ののほん丸の冒険
第1章94
まず交差点の様子を見ることにした。以前見たが、コンビニやレストラン、ガソリンスタンドなどがあり、子供どころか大人が立ち止まる場所はなさそうだ。
それで、その奥の場所を探すことにした。住宅が並びその間に小さなビルがある。それで、本通りを渡って、他の奥も見ることにした。どこも同じような家の並びだったが、小さな公園を見つけた。何もなかったらここで時間を過ごすしかないかと思ったが、平日にここで1時間も待つのは目立つと思いなおして、歩いていると、「ぼく」という声が聞こえた。
声のほうを見ると、一人のおばあさんが、「ぼく。どこか探しているの。前を何回も通るから声をかけたんだよ」と心配そうに聞いてきた。
「ええ。ちょっと。車を探しているんです」と答えて、大体の事情を話した。もっとも、兄と二人で、いなくなった父を探しているということにしておいたけど。
「それはたいへんね。でも、警察には言ったらすぐ分かるでしょ」と予想どおりに言われたので、「そうなんですけど、『そこまで大げさにしなくても』と母が言うので、二人で探すことにしたんです。今まで何回もあったので」とごまかした。
「えらいわねえ。でも、困ったお父さんね。そうしたら、うちで待ったらいいよ。誰も来ないから」
「かまいませんか」おばあさんの家は公園を曲がったとろろにあった。一人住まいで、遠くにいる孫の服を作るのが日課だそうだ。
おばあさんは、「私は自分がしたいことをするので、あなたも好きにしたらいいよ」と言って、別の部屋に行った。
ぼくはお礼を言ってから、しゃかりき丸に電話をした。こちらの状況を話すと、「おれもかなり探したが、今工場の2階にいる」と楽しそうに話した。「交差点なんかはゆっくりできる場所はないもんなあ。どうしようかと考えていたら、『学校へは行かないのか』と若い人が聞いてきたので、「はい。おれ、ここのもんではないんです」と言ってから、きみが考えた話をしたんだ。
すると、『ちょっと待て』と言って工場に入った。しばらくして出てくると、『二階の道路側が物置になっているから、そこでいいのなら使ってもいいと工場長が言ってくれたけど、どうする』と2階を指さした。
おれは、数日かかるかもしれませんがいいですかと言って、二階の物置にいると」と得意そうに話した。
「いい人ばかりでよかったよ。奥さんに連絡しておく」
奥さんは、「さすがのほほん丸としゃかりき丸ね。私も山崎さんに伝えておきます。今のとk炉来ていないから、3時ごろになったら変えてください」ということだったので、3人は札幌駅で待ち合わせることにした。
三上さんにはしゃかりき丸が連絡したが、「準備はできたな。わしも準備しておく」と言ってくれたそうだ。
「三上さんがいるのが心強いわ」奥さんも感謝した。
翌日から、それぞれの場所で佐々木たちがいつ来るかと身構えて電話を待ったが、何の動きもなかった。
4日目、携帯が鳴った。奥さんが興奮して叫んだ。「佐々木が来たよ。今ビルに入った。山﨑さんにも伝えたから警戒してくれている。しゃかりき丸にも連絡しているから。それじゃ、後で」
ぼくは大きく息を吸い込んで自分に気合を入れた。その時、おばあさんが出てきたので、「車が来たと兄から連絡が来たので、交差点を見てきます」と言った。
おばあさんは、「いよいよ来たわけね。見逃さないように」とぼくを見送ってくれた。
急いで交差点の近くにあるバス停に行った。そこのベンチにすわっていたら、車からも気づかれないと思ったからだ。
すぐにしゃかりき丸から電話があり、「奥さんから連絡があって、車はビルから出たそうだ。ぼくの前を通過したら、もう一度連絡する。三上さんには連絡した」と言って切れた。
それから10分ほどして、「今通過」としゃかりき丸から連絡が来た。
バス停には、3、4人の人が来た。人がいるほうがいい。ぼくは立ち上がって、車が来るほうを見た。車が多い時もあるので、絶対見のがさないようにしなければならない。それに、バスは5分後ぐらいに来る予定だが、車もそれぐらいで来るかもしれない。絶対見のがさないようにしなければならない。
ぼくは、バス停の屋根の柱に隠れるようにして、遠くを見た。
バスがこっちに向かっているようだ。ぼくは、バス停から離れて車が来るほうに行った。バスの陰で見のがさないようにするためだ。
来た。スピードを緩めたバスの向こうを通った。ぼくは急いでバス停のほうに走った。しかし、青い車はまっすぐ行くのではなく、バスの前に出てから左に曲がった。ぼくは急いで三上さんに電話をかけた。
ののほん丸の冒険
第1章95
三上さんは佐々木が来たと聞くとすでに幌見峠の麓で待機していたが、ぼくが走りながら、「車はまっすぐ行かずに、この交差点を左に曲がりました。
あっ、今次の信号をまっすぐ行きました」と中継すると、「わかった。すぐに追いかける」と電話を切った。
それから、ぼくはしゃかりき丸と奥さんに電話をして、車が曲がったことと三上さんが追いかけていることを報告した。
「了解。三上さんは、あいつらがどこを走っても見つけてくれると思うぜ。地図を見ながら研究していたから」しゃかりき丸は自信満々だった。
ぼくも確かにそう思った。「このへんで育ったから大体の道は分かっている」と言っていたからだ。
ぼくとしゃかりき丸はそれぞれバスを待って、奥さんがいる札幌ビクトリービルに戻ることにした。
先に帰ったぼくに奥さんは、「予期せぬことになったわね」と言ったが、ぼくが、「そうですね。でも、何かあるものですよ」と答えると、「なるほどね。考えていたようには行かないこともあるのね」と納得したように言った。
それから、30分ぐらいしてしゃかりき丸が帰ってきたが、すぐ「三上さんから連絡が来たか」と聞いた。
「いや。まだだ」
「きみが連絡してから1時間は立っている。何かあったんだろうか」
「三上さんはかなり注意深いから、見つかったりはしないはずだよ。佐々木らがかなり遠いところに行ったからかもしれない」
「それならいいが」
3人は黙ったまま電話を待った。しゃかりき丸の携帯が鳴った。しゃかりき丸は、「三上さんだ!」と立ち上がりながら叫んで電話に出た。
待っている間は長く感じたが、ちらっと腕時計を見ると、しゃかりき丸が帰ってきてから10分ほどしかたっていなかった。
奥さんとぼくも立ち上がってしゃかりき丸と三上さんが話をするのを聞いていた。
しゃかりき丸は、「はい、はい」と答えていたが、最後に「こっちへ来ませんか」と言ったが、電話は終わった。
しゃかりき丸の顔を見ると心配になったが、案の定、「ようやく見つけそうだが、スピードがちがうので追いつけず見失ったそうだ。それで、あちこちの道を探したが駄目だったそうだ。『こっちへ来ませんか』と誘ったが、『今日は帰る。次は絶対行き先を見つける』と言っていた」と三上さんとのやりとりを話してくれた。
奥さんは、「仕方ないですね。大事(おおごと)にならなくてよかったわ」と
ぼくらを慰めてくれた。
ぼくは、「いいところまで行ったが仕方がない。曲がった時にどうするか作戦を練ろう」と今日は引き上げることを提案した。「そうしましょう」奥さんも立ち上がった。
3人で相手の車が曲がった時にどうするかを話し合ったが、これは、三上さんの了解を取らなければならないが、佐々木たちが研究所に来た時、研究所の近くまで来てもらうのが一番いいと言うことになった。
「まさか曲がるとはな。三上さんに待機場所に来てもらう時間さえ言えばいいと思っていた」しゃかりき丸は反省しきりだった。
「ぼくもそうだよ。2か所の交差点にいたのは時間の確認だけじゃなかったのだ」
しゃかりき丸は、「今から三上さんに連絡する」と言って立ち上がった。
しゃかりき丸は別の部屋から帰ってきて、「三上さんは、まだ謝っていたが、『三上さんの責任じゃないですよ』と言って、作戦の変更を伝えた。『了解した。次は絶対に見つける』と言っていた」と話してくれた。
翌日も、3人はそれぞれのもち場についたが、何の動きもなかった。
ぼくもおばあさんの家で時間をつぶした。おばあさんは、ぼくが複雑な事情を抱えていると思ってか家のことは聞かなかったが、おやつを持ってきてくれた時に、昔話をよくしてくれた。
3日目。札幌駅でしゃかりき丸の携帯に電話があった。しゃかりき丸は、「はい。そうです」と言っている。そして、「ありがとうございます。明日もそっちに行く予定ですので、明日教えてください」と言って電話を切った。
ぼくがしゃかりき丸の顔を見ると、「こんなことがあるのか」と独り言のように言った。