のほほん丸の冒険 第1章41~45

   

のほほん丸の冒険

第1章41
すぐに電車に乗り、八王子に向った。ぼくらについてきてくれたミチとハルは今から行く住所を確認した。ミチが、「ここなら駅から10分ほど歩いたところにある。そこに客がいたので、何回も行ったことがある。
しかし、その貿易会社は聞いたことないな。それに、おれが出入りしていたのはかなり前だからテナントはほとんど変わっているだろうな」と言った。
「結局バックに中には何が入っているんだろう」ハルが、ぼくが今まで何十回と聞かれたことを聞いてきた。
「何か本のようなものです。それ以上はわかりません」ぼくは答えた。
それが、木で鼻をくくるような返事になってしまったので、ハルは何も言わなかった。みんなしばらく黙って外を見ていたが、「もうすぐ八王子だ」とハルが言った。
「ビルは近くにある。まず携帯電話が使えるかどうか確認しておけよ」ミチの言葉で、みんな確認した。これはトシが渡してくれたものだ。
それに、二人はサラリーマンに見えるような背広やカバンももっていた。それも仲間のものだ。テツがそう言っていた。
「確かあのビルは、玄関の左側が地下駐車場になっていて、かなり勾配がきつい坂になっていたはずだ。4,5回建てのビルだったので、テナントも30ぐらいあったと思う。おれたちのほうが早く着くと思うので、車が来たらどうしたらいい?」とミチがぼくに聞いた。
「ミチとハルはビルに中に入っておいてください。そして、会社名を調べてください。同じ貿易会社があればいいのですが、もしなかったらどこの会社に行くか調べてほしいのです。車が来たら電話します」ぼくは二人に言った。
確かに10分ぐらいでビルに着いた。車がすでに着いているかどうか調べるために二人はビルに中に入った。ぼくとしゃかりき丸は大きな道の反対側のコンビニに入った。
5分ほどして電話が鳴った。ハルだ。「まだ来ていないな。まず、テナントを調べる」と言って電話が切れた。
本のコーナーで本を見ながらビルの様子を見ていたしゃかりき丸が、「来た」と小さな声で叫んだ。確かにぼくが診療所に行くために乗せられた車だ。運転しているのはあの若い男だ。すぐに電話をかけた。二人が出た。トシが同時に話ができる方法を教えてくれたのだ。ビルの中で携帯で話をしていても誰も疑うことはないだろう。
「車が来ました」ぼくはそう言って電話を切った。二人はエレベータの動きを確認して、若い男がどの部屋に行ったかを調べてくれるはずだ。
20分ほどで二人は出てきた。ぼくらは八王子駅のほうに歩きながら、ミチが説明した。「同じ会社はなかったが、若い男が入る部屋は分かった。社名は安田物産だ。どういうことをしているか帰って調べる。どうする?しばらく男が出てくるまで待ってみようか」
ぼくは少し考えたが、「いいえ。このまま帰りましょう。次どこかへ行っても同じことのように思います。女の人はこんな大きなビルには監禁されていないように思いますから」
「そうだな。今のことをトシに言っておくから、もしどこかへ行ったらまた連絡してもらおう」
「お願いします。その間に、ぼくらは世田谷のビルを見てきます」
「そうか。何かあったら、おれたちもすぐに行くから」ぼくとしゃかりき丸は1時間ほどして世田谷に着いた。駅からかなり歩いたが、ようやくビルに着いた。
3階建てだ。八王子のビルより小さいが、かなり新しい。
「おれ一人でビルを見てくる」しゃかりき丸はそう言うと走っていった。
5分ほどで出てきた。「入ったところにテナント名のリストがあったから、カメラで撮ってきた」と言った。これも、トシが教えてくれたのだ。
しゃかりき丸はそれを見ながら言った。「貿易会社はないな。どうする?」
「そうか。これで準備はできたということで、とりあえず帰ろう。ミチとハルが安田物産を調べてくれているはずだから、このビルに入っている会社との関係が分かるかもしれない」
おじいさんのテントに戻ると、トシ、ミチ、ハル、テツ、リュウがいた。
ミチが、「安田物産は小さな商社で、貿易会社とは同じようなことをしているようだ。それ以上は今のところわからない」と答えた。
しゃかりき丸が世田谷のビルのテナント写真を見せた。ミチはそれを見ながら、「ここにも、同じようなことをやっている会社があるな。どういうつながりがあるかもう少し調べてみよう」と言った。
ぼくは、「お願いします」と答えたが、これからすることが頭に浮かんだ。
それで、しゃかりき丸に「行くぞ」と誘った。

のほほん丸の冒険
第1章42
ぼくは、急いでテントを出た。しゃかりき丸はぼくより年上なのにえらそうな口をきいたと思ったので、どうしようかと思った。
しかし、急いでいるので、謝るのは帰ってきてからにしようと決めた。テツやリュウに話をしたら時間がかかるし、ミチやハルもついていくと言ったら断るのも面倒だと思ったからだ。
「きみが行きたいところはわかっているぜ」後ろからしゃかりき丸の声が聞こえた。
ぼくは、「ありがとうございます」と立ち止まって答えたが、「急ごう」と
しゃかりき丸はぼくを抜いていった。
しばらくして、「改札口を変えようか。いないと思うが、あいつら、おれたちが何回もいなくなったので、怒り狂っているかもしれないからな」
「そうしましょう。ぼくらはお尋ね者ですからね。人も増やして探しまくっているかもしれない」
「それじゃ。西口から行こうか」
西口には、それらしき男はいなかった。すぐに、三鷹行きの切符を買ってプラットホームに行った。
日曜日だったので大勢の家族連れがいた。その近くで電車を待った。電車の中でも家族連れの近くに行き、まわりの様子を見た。
駅についても用心しながら外に出た。「大丈夫そうだな。バスに乗ろうか」しゃかりき丸が言った。
「そうですね。念のため、一つ前の停留所で降りましょう。ビルの近くに停留所がありますから、もし鉢合わせしたら大変なことになります」
「それがいい」
ぼくらは一つ前の停留所で降りて、一つ裏の道に入った。しゃかりき丸を助けるためにあちこち歩いたので、町の様子は頭に入っていた。
「この道を入れば、ビルの裏に行く。塀があるが、例の裏庭が見えるよ。
庭の左側にビルから地下道でつながっているガレージがあるんだ」
ぼくらはさりげなく進んだ。三階建ての小さなビルがあった。庭とガレージもあった。しかし、ガレージに車がとまっているかは分からない。
ビルもすべての窓が閉まっている。もちろんノブを壊した勝手口のドアも屋上に上がるために割った明り取り窓も修理されているはずだ。
ちょっと様子を伺っていたが、静まりかえったままだ。「人の気配がない。取りあえず今は使っていないかもしれないが、もう少し様子を見ようか」としゃかりき丸に言った。
それで、ビルの前の道であるバス通りに向かうことにした。バス通りに出る前に歩道の様子を見たが、日曜日なので、案外人が歩いていた。助けるために何日も来たが、その時は夜だったので人はあまり歩いていなかったのだ。
ちょうど4,5人の子供が歩いてきたので、それに交じるようにしてビルの前を通った。
やはり窓は閉まっていた。男たちが出入りするビルはいくつかあるようなので、用心の悪いビルは使わないと思ったが、今後どうするかしゃかりき丸と話をするためにビルの前にあるカフェに行くことにした。
もちろん、ビルの様子を伺っただけでなく、そこのスタッフからビルのことを聞いたカフェである。
そこの若い女性スタッフが、ビルに出前して玄関を出たとき、先ほどお金を払った男が、すでにビルの外にいたことを話してくれたのだ。
そのスタッフが、店の他のスタッフにそのことを言うと、「きっと双子だったのよ」と大笑いされたそうだ。
ぼくは、どう助けたらいいか考えていたので、その話が気になった。それで、夜中ビルに忍び込んで、ビルとガレージは地下道でつながっていることに気づいたわけだ。
しゃかりき丸を助けても、ビルの玄関の玄関が閉まっていたら出られない。
ガレージのシャッターは簡単に開けておくことができたので、すぐに逃げられたのだった。
ぼくらはカフェに入った。以前のようにバス通りの向こうにあるビルを監視できるカウンターにすわった。
「何か注文しようか」と立ち上がった時、「あら」という声が聞こえた。
そちらを見ると、例の女性スタッフが目を丸くしてぼくを見ていた。「以前よく来てくれていたわね。でも、あの時は女の子だったじゃないの」と小さな声で言った。

のほほん丸の冒険
第1章43
しゃかりき丸も、のほほん丸が追いかけてくる男たちに見つからないように女の子の姿になっているのは知っていたし、このビルに監禁されていた自分をその恰好で助けてくれた後一緒に駅まで逃げたのも分かっていたが、見知らぬ人にそれを指摘されたので思わず笑ってしまったのだ。「ばれていたな」しゃかりき丸はのほほん丸に言った。
「だって、この人、2回トイレに行ったけど、いつも男子トイレだったのよ」そのスタッフもおかしそうに笑った。
「これから気をつけます」ぼくは謝るしかなかった。
「これからもするの。お母さんは見つかったの」若いスタッフはなかなか許してくれなかった。
「いや。まだなんです」
「それは心配ね。でも、少し情報があるから、また後でね」
ぼくらは、ビルのほうを見たが、昼過ぎでも静まりかえっている。
「情報ってなんだろう」と思いながら、二人はレジで注文をして、それを持って戻った。ちょうどビルの前だから、二人いれば、ビルに動きがあれば見逃すことはない。
「三階にきみの姿をちらっと見えたから、ぼくはドキドキしたよ」としゃかりき丸に説明した。
「一日一回空気を入れ替えていたからね。男が、カーテンを閉めてから、窓を開けるようにしていたが、それを忘れていたんだろう」しゃかりき丸が説明した。
そのとき、先ほどのスタッフが戻ってきた。二人は、スタッフを見た。
「この前、久しぶりに出前を頼んでくれたビルの人が、二人連れできたの。
横を通ったとき、聞くとはなしに聞いたんだけど、『どうしてあそこから逃げたんだろう』としゃべっていたような気がする」
ぼくらは緊張した。「それで、逃げたのはあなたのお母さんのことに違いないと思ったわけ。
トイレの一件のことがあるから、他のスタッフと、『よかったわね』と話していたの。
でも、今そうじゃないことがわかったので、男の人が何を言っているのか分からなくなったけどね」
「ありがとうございます。その後店に来ますか」ぼくは聞いた。
「その後は誰も店に来ないし、ビルのことも気をつけて見なくなった」
「そうですよね。ぼくらも久しぶりです」
「じゃ。お母さんはまだこのビルにいるの」
「分かりませんけど、今の話を聞いたら、いないと思います」
「でも、どうしてここに来たの。あら、警察のようになってしまったね。ごめん。ごめん。ゆっくりしてね」スタッフは退散した。
「今の話、どう思う」しゃかりき丸が聞いた。
「ガレージにつながる地下道はなぜわかったのかと疑心暗鬼になっているんだ。だから、それが分からないとこのビルは使わないだろう」
「それなら、今ビルに出入りする人間はいないということか」
「そうかもしれない。もう少し見張って、何も動きがないのなら、ここをあきらめるしかないかな」
そう話している間も、ぼくらは、何一つ見逃さないとい気持ちで、前のビルを見続けた。
例のスタッフもぼくらの横を通ることがあったけど、ぼくらの気配を感じて、言葉をかけることはなかった。
5時になった。やはりこのビルを使っていないようだと判断して帰ることにした。
店を出るとき、あの若いスタッフが近づいてきて、「もし何かあったら、連絡しようか」と聞いてきた。ぼくがトシから借りている携帯電話の番号を教えた。
次の日は今後の作戦を考えながら、トシから最新の通信器具の使い方を聞いた。夕方、携帯電話が鳴った。「来たわよ!」若い女性の声が聞こえた。
ぼくは、「すぐに行きます」と立ち上がった。

のほほん丸の冒険
第1章44
ぼくらは急いで新宿から三鷹に行き、そこからバスでカフェに向った。
カフェに飛び込むと、スタッフ全員が笑顔で迎えてくれた。電話をかけてきた若い女性スタッフはすぐにスタッフの休憩室に入れてくれた。
そして、すぐにしゃべりはじめた。「夕べの11時ごろに、わたしが自分のアパートからビルを見ていたら、車が来たようだったので、急いでビルまで行ったの。
そうそう、店は10時までなので閉まっているけど、アパートの部屋からビルが少し見えるのよ。家があって全部は見えないけど、上のほうだけね。
以前それに気づいたので、ソファの向きを変えて音楽を聴きながら監視することにしていたの」
「どうでしたか」話が長くなりそうだったので聞くことにした。
「ビルやそのまわりは真っ暗だけど、何かライトが光ったように見えたの。すぐに行ったけど、暗いままなのでまちがったかなと思いながらも、カフェのほうを何回か行き来していたら、3階の部屋に電気がついたの」
ぼくらは黙ってスタッフを見た。「お母さんも三階にいたのよね」
「そうです」
「確かに人が動いているようだったけど、カーテンが閉まったままなので、誰だか分からない。ずっと見ていたけど、1時間ぐらいで電気が消えた。
しばらくして玄関から人が出てきた。どうも女の人らしかった。それから、裏手に回って、止めていた車に乗って出ていっただけど、ナンバーは調べておいたわよ」
「そうでしたか。ありがとうございます」
「前にナンバーのことを言っていたから、調べておいたほうがいいと思って、こそっと車に近づいてメモしておいたよ」スタッフはそう言ってメモを渡してくれた。
ナンバーを見ると、今までの2台とも違っていた。それに女の人が運転していたということだ。
「いただいていいですか」
「いいわよ。何か役に立つかな」
「もちろんです。少し知り合いに電話してもいいですか」
「じゃ。私は仕事をしてくるから、しばらくしてまた戻ってくるわね」スタッフは出ていった。
「女がいるんだ」しゃかりき丸が言った。
「重点的に調べる必要があるね」ぼくは、そう答えてからトシに電話した。
トシがすぐに出たが、「今電話しようと思っていたんだ」と言った。
トシは、2台に付けていた追跡装置が機能しなくなっている。つまり、外されていると言った。
「見つかったんですね」
「そうだ。自分らのまわりで起きる不審なことから気づいたんだろう」
「少し考えてみます」そう言って切ってから、しゃかりき丸に説明した。
「これからやつらも警戒してくるなあ」
「油断しないようにしなくては」
「これからどうする」
「せっかくだからあのスタッフに頼みたいことがある」
ちょうどスタッフが来たので、ぼくは、「お願いがあるんですが」と頼んだ。
「何でもするわよ」女性スタッフはすぐに答えた。
「ありがとうございます。また車が来たら、これを車の下のつけてほしいのです」とリュックから取り出した追跡装置を渡した。
しゃかりき丸は驚いてぼくを見た。「これは車がどこに向かっているか、どこに停車したか分かる装置です」
「知っているよ。お客さんがよくしゃべっているから。それを車に付けてくれないかということ」
「そうですが,今まで2台に付けたのですが、外されてしまったので、今度は車の後ろではなく、前のほうにつけてhそいいのです」
「なるほど。相手の裏を書こうというわけね」
「そうなんですが、夜に、しかも女の人なら、後ろの下を見ても前のほうは見ないかもしれません。とにかく、ここを出てどこに行くか知りたいのです。
翌日外されても仕方ありません。敵は手ごわいと思わせるだけでも効果があります」それを聞いた女性スタッフはいたずらっぽくうなずいた。

のほほん丸の冒険
第1章45
「きみら、子供なのに大人と戦っているんだね。お父さんは怒らないの」女性スタッフが聞いた。
「気をつけろと言いますので、気をつけてやっています」と答えた
「なるほど。責任をもってやっているのなら構わないけど。私もこんなの好きだけどね」
「じゃあ。お願いします」
「分かりました」女性スタッフは追跡装置を預かってくれた。
ぼくらはカフェを出た。「後は連絡を待つだけだな」しゃかりき丸が言った。
「そうだ。そして、トシからすぐに連絡が来るだろう」
ぼくらはテントでおじいさんの世話をしながら連絡を待った。
リュウが、「今後どうするか焦らず考えたほうがいいぞ。まちがった作戦ではいくら努力しても実らないからな」とアドバイスしてくれた。
「じいさんがいつもそう言っているやつだな。おれたちを早く娑婆に戻そうとしているんだ。とくにリュウがしょっちゅう言われている」
「じいさん、いびきをかいて寝ているから、おれが代わりに言ってやったのさ」
「ありがとうございます。二人でゆっくり作戦を練ります」
三日後の午後10時20分。携帯電話が鳴った。女性スタッフからだ。慌てた声で、「さっき来たよ。アパートから車のライトが見えたので急いで来たの。
前と同じ車にまちがいないわ。ビルを見ていると、3階に明かりがついたので、すぐに追跡装置を前につけたよ」
「ありがとうございます。追跡装置を見てくれている人がいるから、もうすぐ連絡が来ると思います。ありがとうございました」ぼくは礼を言って、電話を切った。
案の定、電話が鳴った。トシに違いない。「動き出したな。しばらく様子を見る。停まったら連絡する」電話はすぐに切れた。
「いよいよだな」しゃかりき丸が興奮した。
小一時間が過ぎたころ、また携帯電話が鳴った。「停まったぞ。練馬区向山(こうやま)だ」
住所を聞いて、地図を見てから、電車を調べた。乗車時間は20分弱だ。やつらは大体このあたりにいるようだ。そして、始発を調べて休むことにした。
西武池袋線の中村橋に着いてから、トシに電話して、その車はまだそこにいるか聞いた。
「おまえら。もうそこにいるのか」と驚いたようだが、「そこにいる」という返事だった。
ぼくらは中村橋から走ってその場所に向った。そして、午前6時前には現場に着いた。白い3階建てのマンションだ。まだ早いので道路にもマンションにも人の姿は見えない。
「さあ、どうしようか」しゃかりき丸が聞いた。
「小さなマンションなので誰でも出入りできるだろう。まず車だ」
「裏手が駐車場になっているはずだ」玄関横から裏に回った。確かに10台近くの車が留まっている。
「スタッフの話では、この車かもしれない」ぼくはすばやくその車の前を探った。追跡装置があった。それを取って、すぐにリュックにしまいこんだ。
「ここまではうまくいった。この車の持ち主がどの部屋にいるかだな」しゃかりき丸がうなずきながら言った。
「こんな早朝に子供がマンションのまわりをうろついていては怪しまれる。中に入ろう」
マンションにはすぐ入れた。右手に郵便受けがあるが、どこにも名前は書いていない。
ただ、新聞が入っているので、もうそろそろ取りに来る人がいるだろう。
エレベータはなく階段だけだ。さっき車を見に行ったとき、玄関の反対側には非常階段があったようなので、そこにいるのが一番目立たないと思った。
「1階の通路を通って一番奥まで行った。そこのドアも開いていた。
やはり建物の奥に非常階段があった。それを登って3階まで行った。幸い階段の手すりの半分ぐらいまでカバーがあったので、そこにすわっていれば外から見られないようになっていた。
「ここからあの車に乗る人を見つけるのか」しゃかりき丸が聞いた。
「それはそうだが、その女の人がどの部屋にいるのか知りたいな」
「うーん」二人は考え込んだ。「こいつは厄介だな。1階に4部屋ある。合計12部屋か」
「そうだ。こうしよう」しゃかりき丸が提案した。
「きみは1階を担当して、おれが2階と3階を担当する。出勤や何かでドアが開く音がする。その音を聞いたら非常階段からそっと見る。男や子供は違うだろうからその部屋を覚えておく。
バスで出勤する人も多いだろうが、車の人もいる。どの車に乗るかも確認する。そうしたら、怪しい部屋はかなり減ってくる」
「それはすごいアイデアだ。ありがとう」ぼくはしゃかりき丸に礼を言った。
「いや。きみから教えてもらったように考えただけだ。それじゃ、配置につこう」

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