オニロの長い夢 1-68

   

オニロの長い夢

1-68
オニロは大きな商船を見送りながら、いつも雲がかかっている島を早く探さなければと思いました。
商船の船長らしき男から聞いた方向を確認してから船を進めることにしました。海は靄(もや)がかかっていて遠くまで見えませんが、少しでも早く雲の山に近づきたいので、前方を見ながら進みました。オニロの気配を感じたのか子グマも黙ったまま前を向いています。
しばらく行くと靄が徐々に消えて視界が広がりました。オニロは遠くまで見ましたが、雲の島どころかどんな島も見えません。昔は水平線を海の果てと思っていました。今はその線を越えてもまだ海は続くと分かっていますが、水平線まで島らしいものはないのです。ただ、たまにキラキラ輝く波の上にクジラが浮いているだけです。
とにかく雲の島を見つけなくてはなりません。一刻も早くピストスを助けたいのです。
ここはかなり陸から離れているようで、漁をしている船はいません。それなら、さっきの船のように交易をしている大きな船を見つけてこちらから近づこうと決めました。
しかし、暗くなってきたのでここで休まざるをえません。すると、急にお腹がすいてきました。そう言えば長い間何も食べていないことに気がつきました。子グマもお腹がすいているはずと思って、船長からもらったものを食べることにしました。魚や肉を乾燥させたものやチーズなどがあります。これjはごちそうです。子グマは無我夢中で食べました。オニロも少し残して食べました。
それから、パパやママの星を探して少し話をしてから、すぐ寝てしまいました。
翌日、太陽の光が眩しくて起きました。いつもなら、日差しだけでなく、突然の雨をさえぎるために大事なものを入れる屋根つきの場所に頭を入れて寝るのですが、あまりに疲れていてそのまま甲板に寝てしまったようです。子グマもオニロの横で寝ていました。
幸い前日と同じような穏やかな天気です。子グマも起きています。昨日釣った魚を焼いて朝ごはんにしました。
それから、船の様子を調べて、子グマに、「さあ、行こうか。ピストスを助けたら、おまえを親がいるところにつれているから少しの間辛抱してくれよ」と声をかけて船を動かしました。
眩しいぐらい波がキラキラ輝いています。魚が飛び跳ねています。海は平和そのものですが、ピストスのことを考えると胸が苦しくなってきます。
オニロは、「ピストス、待っていろ。絶対助けてやるから」と大きな声で何回も叫びました。苦しい気持ちを押し殺すためです。
オニロは気持ちを落ち着かせてはるか遠くまで海を眺めました。しかし、島らしきものは見えません。
とにかく早く進みたいが、まちがった方角にいくことは取り返しがつかないことになる。いつもこのことが頭に浮かびます。しばらく船を止めていましたが、水平線のほうで何か動いているのが見えました。目を凝らして見ていると、帆があるようです。「船だ!」オニロは叫びました。「昨日のような商船なら、何か知っているかもしれない」オニロは船を進めました。幸い追い風が吹いてきたので、ぐんぐん速度を早めました。
かなり近づきましたが相手は止まりません。気がつかないのかと考えて、休まず船を動かしました。
かなり大きな帆船のようです。これなら、かなり多くの人が乗っているはずです。何か教えてくれるかもしれない。どんどん船に向かって進みました。
人がいるのが見えるようになりました。すると、帆船のほうから何か飛んでくるのが見えました。何だろうと見ていると、オニロの船の手前で大きなしぶきを上げて海に落ちました。
それからも、数十個も飛んできました。中にはオニロの船のすぐそばに落ちて、しぶきが船に入ってきました。
石が飛んできたのか。これは危ないと思って船を急いで戻しました。なぜこんなことをするのだろうかと不思議でしたが、すぐにぼくを海賊と考えたのだと思いました。
海には大きな船を襲って財宝などを奪う海賊という集団がいるとは聞いていましたが、、まさか自分が海賊に思われるとはと驚きました。
これでは雲の島を聞くことができない。しかし、大きな帆船は海賊を追い払ったと考えてそのまま進んでいます。
オニロは、白いシャツを予備として置いていた棒に括りつけ、それを振りながら大きな帆船に近づくことにしました。

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