ユキ物語(23)
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(237)
「ユキ物語」(23)
今までと違って背の低い木が生えていた。しかも、それもまばらになっていき、大きな岩がところどころあった。それに、道が狭くて登りがきつくなってきた。それより恐ろしいのは道の横は崖になっていて、足を踏み外せば落ちてしまう。足が震えてくるのが分かった。おれの祖先はこんな道でも走っていたのだろうか。
ウサギを見ると、枝を頭に乗せた連中に遅れまいと懸命に足を動かしている。
おれもついていかなくてはならないと思ったが、徐々に息苦しくなってきた。
大きく息を吸い込むときに、頭を上げて見るとまわりの山が下のほう見えている。
まさかこんなところまで来るとは思わなかった。ただ、山の麓に戻りたいと言っただけなのに。
そこには水があまりない川があり、ひょいと渡れば、おじいさんや子供たちと散歩に行った土手がある。そこから、おじいさんの家に戻るのではなく、町のほうに行く。
途中で迷っても、野良犬に道を聞けば、おれがいたペットショップに帰れるはずだ。
そういう魂胆でおじいさんから逃げたのに、ウサギに会ったばかりに、雲の近くまで来てしまった。
このままでは野垂れ死にするかもしれない。おれはウサギとともに戻ろうかと考えたとき、向こうから、また頭に枝を乗せたものが姿を見せた。かなりいるようだ。興味深そうにおれたちを見ている。
枝を乗せていないものもいるが、ほとんどが乗せている。このあたりではそれが流行っているのか。
いつの間にか背後にもいる。これでは逃げられない。息苦しいし、足を踏み外す恐れもある。
しかし、おれたちを取って食おうとする気配はない。とにかくもう少し様子を見るしかない。
やがて、道幅は徐々に大きくなり、大きな広場のような場所に着いた。まわりには同じように背が低い木が無数に生えていた。
案内したものは止まった。こいつらはおれたちをここに連れてきたかったのか。
すると、木の間からものすごい数の仲間が姿をあらわした。相変わらず頭には枝をつけたものもいるし、つけないものもいる。そして、おれたちを見ながら何か話している。
おれたちをどうするつもりか。今晩のおかずか。こんなに多くては一人分は少ない。
誰かが甲高い声を出した。命令でもしているのか。すると、おれたちのまわりを取り囲んでいるものが動き、間に空間ができた。
すると、そこに大きなものがあらわれた。同じ仲間に違いないが、頭の枝も大きく古そうだ。しかも、真っ白なひげが、地面に触れるぐらい長く伸びている。
おれたちを連れてきたものが、その老人に何か言っている。群衆も聞き耳を立てて聞いている。
やがて、その老人がゆっくりとおれたちの前に来た。おれもいつのまにか直立不動になっていた。ウサギも顔を上げて老人を見ていた。
老人は、「いかがされた?」と聞いた。えっ。えっ。他のやつが何を話しても、キーン、キーンというような音にしか聞こえないのに、この老人はおれに分るように言ったのだ。かすれた声ではあるがゆっくり話すので、「いかがされた?」と聞こえた。
おれの聞きまちがいかもしれないが、そんなことを確かめている暇はない。
おれは、どうしてここまで来るようになったか急いで話した。
老人はじっと聞いていたが、「道理でこのあたりで見たことのないはずじゃ。
わしらの仲間も最初おまえさんたちを見たとき、同じ仲間とは思えなかった。
しかし、仲よくしているので何かあるなと思っていたところ、山を下る道を教えてくれとのことじゃったが、わしらは山から出ることがない種類じゃ。同じようなものでも山から出るものもおる。
それで、わしなら道を知っていると考えて、こんな高いところまで来てもらったわけじゃ」