ユキ物語(21)
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(235)
「ユキ物語」(21)
目をつぶっていてもなにも浮かばないので、あたりを見回した。しかし、大きな木や小さい木が重なるように生えているだけで、どの方向かなどは皆目分からない。
木の間から見える空には時々鳥がのんびり飛んでいるだけだ。これだってどうしようもない。
それなら、得意のにおいはどうだ。木や草の変わりだけだ。それはそれで気持ちがいいのだが、どこも同じにおいがする。
ヨーロッパの山を駆け回り、主人の財産である牛や羊を狙うオオカミやコヨーテに立ちむかった祖先のようには行かない。第六感はそう簡単には身につかないようだ。
おれはウサギに、「山のてっぺんまで行こうか。そこからあたりをみよう。
山が続いてるほうに行っても仕方がないから、その反対に行けば、きみの家族がいる河原のほうに行けると思うが、どうだろうか?」と聞いた。ウサギはうなずいたような気がした。
「よし。そうしよう。何か気がついたら言ってくれないか。おれは山については素人だから」
おれはウサギの様子を見ながら山を登った。もし登っている間にウサギがまた足を痛めたら登るのをやめなければならない。
しかし、ウサギはぴょんぴょんと軽快に登っていった。それを見ていると、早く親や兄弟に会いたいのだなと思った。とにかくこいつを無事に家族の元に戻さなければならないと自分に誓った。
登るにつれ山は木が少なくなり岩肌が増えてきた。もちろん岩のまわりには木が生えているのだが、遠くまで見渡すことができるようになった。
すごい風景だ。これはうまくいったぞ。おれは大きな岩を探して、その上から山の様子を見ようとした。
その時、頭の上を影が走ったような気がした。すると大きな鳥が岩の下に急降下したのが見えた。おれはそれに向かってジャンプした。
影は驚いて、ばたばたしながら空に戻っていった。どうやら大きな鳥だったのだ。
おれはウサギに、「おい。大丈夫か!」と声をかけた。動かない。おい。おい。おれは鼻で腹を向けているウサギの体をゆすった。
なんてことをしてしまったんだ。おれは後悔しながら、ウサギのまわりを回った。
なぜそうしたのか分からないが、また鳥が襲ってくるかもしれないと考えたのだろうか。
しばらくそうしていると伸びていた足が動いたような気がした。今まで誰にもしたことがないが、おれは足をなめた。しばらくすると腹が動くようになった。心臓が動くようになったのだ。それは生きていると言うことだ。
やったぞ。おれは体中をなめた。しばらくすると、ウサギは赤い目を開けた。それから、体をくるっと起こした。そして、赤い目でおれを見た。
「よかった」ウサギにそう声をかけると涙が出てきた。これもおれにとっては初めてのことだ。おれも泣くことがあるんだと分かった。
一瞬の間に鳥に向かって行ったのは、ウサギを守らなければならないという気持ちの表れだったのか。第六感とは感情をつかさどる場所にあるのかもしれないと思った。
ウサギもおれの体に自分の体を寄せてきた。どうも泣いているようだ。元々赤い目をしているので、よく分からないがその動きで分かった。
それから、まわりや上に注意しながら進んだが、今度は肝心の下にも注意しなければならない。
ちょうど、おれが嫌いなと言うか、多分初めて見たのに名前を知っていたヘビ、それもとりわけ大きなヘビがおれたちの前を通ったのだ。青くて臭いのが通ったときはおれは失神しそうだった。
でも、ウサギは気にしなかった。それより、「こんにちは」と挨拶するように近づいたのだ。
まわり、上、下に注意しながら、ウサギが襲われない岩場を探した。
そして、ようやく大きな木の下にある岩場を見つけた。ここなら、ウサギが襲われることなく山の状況を見渡しができる。
おれたちはそこでしばらく休んでから、時間をかけて河原がある方向を探すことにした。
そのとき、木の間から、馬でもないし、牛でもないものがこちらを見ているのに気づいた。