お梅(9)
「今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(190)
「お梅」(9)
「おばあさん、大丈夫ですか!」お梅は慌てておばあさんを抱きかかえました。
「大丈夫じゃ。こんなことを子供のおまえに言うべきことじゃないことはわかっておる。
それがどんな理不尽なことであっても、村を守っていくためには仕方がないものがあるということをおまえに教えたかったのじゃ。
その子供を産んだ母親は辛いじゃろうが、こんな子供がいると知れわたると、村にもその家にも具合が悪いので、墓を作らないためにこんなことを考えたのかもしれん」
お梅はおばあさんの気持ちが分かったので、「すみません」というだけでした。
おばあさんは、こうなったらすべてを話そうと決心したようで、「おまえはその子供をどうしたいのじゃ」とさらに聞きました。
お梅はそこまで考えていなかったので、「よく分かりません」と答えました。
「もしその子供がどこの家の子供か分かってそこへ連れて行ったら、親はどう思うじゃろうか。喜ぶのか、あるいは今さらと思うのかおまえは考えてみたことがあるか?
かわいそうじゃというだけでは世の中は動かん、無理に動かすと、村がばらばらなる。それはおぼえておいてくれ」
「わかりました。おばあさんがここで住めなくなると困ります」
「わしのことはいいが、おまえも学問が好きなのに、それもできなくなる」
お梅は、自分のことはともかく、おばあさんを苦しめないようにしようと心に決めました。
しかし、かんちゃんたちは大丈夫だしたろうかという思いは残ったままでした。
あのままでは学問はできないし、病気になれば苦しいだろう。
幸いこれから夏になる。しばらくは大丈夫だ。寒くなる前に何ができないか考えようと決めました。
寺小屋がない日はおばあさんの手伝いをしますが、それがすむといつものような洞穴に行きました。
最近は、うさぎもかんちゃんも来ません。寂しいですが、暗い洞穴で考えごとをしていると時間を忘れてしまうほどです。しかし、うまい考えは浮かびません。
あるとき、そうだ!と思わず大きな声を出しました。別にこうしょうと決めたのではないのですが、まずはかんちゃんたちの希望を聞くのが先決だと気がついたのです。
もちろんおばあさんから聞いたことは守ってですが、その上で、かんちゃんたちの役に立つことをしようと思ったのです。
毎日雨が降るようになって、洞穴はじめじめしてきました。寒くなるまで来ないのかなと思っていったとき、洞穴の入り口に影が見えました。
お梅は急いで入口のほうに行きました。「かんちゃん!」お梅はかんちゃんの手を引っ張って中に入るように言いました。
かんちゃんは驚いて後ずさりしましたが、ようやく中に入ってきました。
洞穴に入るととても楽しそうにお梅に抱きつきました。
お梅は、着物のふところから金の玉を出しました。そして、「かんちゃん。あなたがくれたこれをあなたに返します」と言いました。
かんちゃんは首を振りました。お梅は、「これから必要になるから持っておいてください」と言ってかんちゃんの手に再び返しました。
それから、「かんちゃんは家に帰りたいですか?」と聞きました。
かんちゃんは、「かんちゃんの家はお山」と答えました。
「そうじゃなくて、屋根があって、畳がある家のことです」お梅は丁寧に説明しました。
「屋根?畳?」
「そうです。雨も雪も心配ありません」
「かんちゃん、家に戻りたい」かんちゃんははっきり言いました。