お梅(8)
「今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(189)
「お梅」(8)
お梅は家に帰っても胸がどきどきしたままでした。名前で呼び合っているのならまちがいなく人間であるということが分ったのと、それをおばあさんに言うべきか迷っていたからです。
そんなことはもう考えるなと叱ったおばあさんはどう言うだろう。お梅は苦しくなりました。
苦しそうにしているお梅を見たおばあさんは、「冬に無理をするからそんなことになるのじゃ。もう春だからしばらくすれば元気になる」と励ました。
「おばあさん!」お梅は思い切って大きな声を出しました。
「なんじゃ」おばあさんもその声にびっくりして大きな声で答えました。
「これを見てください」お梅は,ふところからきらきら輝いている金の玉を出しました。
「どうした?」おばあさんは驚いてそれを見ました。
「はい。山にいる子供がくれました」おばあさんは言葉を飲みこみました。
「名前はかんちゃん、しんちゃん、きんちゃんです。みんな顔は汚れていますが、寒さをしのぐものを着ています。みんな元気そうです。
しかし、3人とも名前は言えるのですが、それ以外は、アーとかウーしか言えません」お梅は一気に話しました。
おばあさんは、「それなら、どうしてそれをおまえにくれたのじゃ?」と聞きました。
お梅は、いつかは言わなければならないと思っていたので、覚悟を決めて話しはじめました。
おばあさんは、何も言わず最後まで聞きました。それから、「おまえが嘘をつくような子供でないことはわしが一番よく知っている。しかし、うさぎが言葉を話すとはとても信じられん」と言いました。
「おばあさんのおっしゃることはわかります。私も、最初はうさぎが人間の言葉を話すなんてとても信じられませんでした。頭がおかしくなったのじゃないかと何回も思いました。
しかし、寺小屋でみんなと話すのと変わりません。何か聞けば答えてくれるし、聞けば答えてくれます。
それで、そのうさぎは人間の言葉を話しているなどとわざわざ考えないようにしました。むしろ人間と話すよりも楽しいのです。ほんとは何を考えているのだろうかと詮索しなくともすみますから」おばあさんはこのことでお梅を追い込まないように決めました。
「まあ、それはおいておこう。しかも、その玉を山の子供からもらったのはまちがいないじゃろ。
返して来いと言っても、そう簡単には会えないようだし、うさぎに頼むのもできそうにないようじゃな。それに、子供の善意を裏切るようじゃ」
「おばあさん、ありがとうございます」
おばあさんは真剣な顔をしてお梅を見ました。「おまえには言わないようにするつもりだったが、言っておくことがある。ただし、寺小屋では決して言わないことを約束してくれ」
「わかりました」
「先ほどのおまえの話では、その子供たちは普通にしゃべれないということじゃったな」お梅はうなずきました。
「このあたりでは、育つ見込みのない赤ん坊や、2,3才でしゃべれない子供は山に返すことがある。要するに厄介払いじゃな。
それは当番がする。墓の穴掘りは誰でもするが、子供を山に捨てるのはみんな嫌がる。
しかし、山には炭焼きの夫婦があちこちの山にいる。そこの子供かもしれぬが、冬には山を下りるはずじゃ」おばあさんは話を終えるとぐったりしました。