お梅(7)

   

「今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(188)
「お梅」(7)
うさぎの母親は少し考えていたが、「名前ですか」と聞きました。「名前って何ですか?」
「私は梅と呼ばれています。それが名前です」
「お梅さんですね」
「名前に『お』をつけるのは親しみをあらわすようです。女にだけつけます」
「わかりました。『あなたの名前を教えてください』と聞いても失礼じゃないのですね」
「失礼じゃありません」
「聞いてみます。ただいつ出会えるかわからないので、いつとは約束できません」母親は申しわけなさそうに言いました。
「無理に会おうとしなくてもいいです。会えたらでけっこうですよ」お梅は笑顔で言いました。
それから1カ月近くが過ぎました。その間何回も洞穴に行きましたが、母親はいませんでした。
あるとき、洞穴で一人すわっていると、入り口のほうから、「お梅さ~ん」という声が聞こえました。
「ママ!」お梅は立ち上がって入り口のほうに急ぎました。
「会えましたよ!」母親もぴょんぴょん跳ねながら来ました。
「ありがとうございました」お梅はひざまずいて礼を言いました。
「でも、ちゃんと聞けなかったです」母親は謝りました。
「教えてくれなかったのですか」
「いえ、そうじゃないです。その子供はお梅さんのようにしゃべられないのです。
私は、『先日はありがとうございました。金の玉はちゃんとお梅さんに渡しておきましたよ』とお礼を言ってから、『失礼ですが、あなたの名前を教えてください』と言ったのです。
でも、その子供は、『ああ』とか『うう』とかしか言わないのです。
それで、私は、もう一度、『名前を教えてください。娘さんはお礼を言いたいそうです』と聞きました。すると、『かんちゃん』とか言ったように思いますが、合っているのかどうか自信はありません」母親は一気に話しました。
「『かんちゃん』ですね。ありがとうございました」
「私は息子に聞いたのですよ。山に住んでいる子供はみんなそうだよと言っていました。何を言っているかわからない。でも、『やさしいよ』と言っていました」
「ほんとに人間の子供でしょうか?」
「それはまちがいないと思います。ぼろぼろでも、ちゃんと着物を着ています。高いところには登れないようです。でも、走るのは早いです。イノシシにも負けないぐらいです」
「寒くはないのでしょうか」
「走りまわっていますから、寒くはないのかもしれません」
「信じられないわ」
「息子にもお梅さんの希望を伝えていますから、息子も聞いてくれるかもしれません」
そのとき、「ママ!」という声が聞こえました。あの子供だ。友だちも3匹います。
「お梅さんもいますよ」
「お梅さん、久しぶりです」子供はうれしそうに挨拶しました。
「相変わらず元気そうね。けがをしないように遊ぶのよ」
「ありがとう。それと、山の子供の名前を知りたがっているんだね」
「そうです」
「かんちゃんだよ。山の友だちと遊んでいるとき、あの子供が、『かんちゃんがする!』と自分のことを言っているのを聞いた友だちがいるんだ」
「他に、しんちゃんとかきんちゃんとかいう名前も聞いたことがあるようだよ」
お梅はうなずきました。

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