お梅(3)
「今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(184)
「お梅」(3)
子供の右の前足は確かにぐらぐらしています。
「たいへんなことになっているわ。それに血も出ている。痛くないの?」
「痛いことは痛い。でも、ぼくはけがをよくするが、それで分かったのは、痛い、痛いと言っても、我慢するのも同じように治るんだ。それなら、我慢したほうがぼくもまわりのものも気が楽だということさ」
「えらいわ。でも、今まで骨が折れたことはあったの?」
「いや。ここまでになったのは初めてだ」
「骨折はちゃんと直さないとうまく走れなくなるかもしれないわ。
おばあさんに聞いてくるから少し待ってて。火鉢があるからこれで体を温めてね」
「ありがとうございます」母親がお礼を言った。
「ママ、大丈夫?」
「大丈夫よ。この人に任せたらいいのよ」
子供のうさぎは不安そうだったので、お梅は、「ママとはお母さんのことよね?」
と聞いた。
「そうだよ。ママはママ、パパはパパ。そんなこと知らないの?ぼくにはパパはいないけど」
「ありがとう。そんなこと寺小屋では教えてくれないから。それに、私にはママもパパもいないの」
お梅が洞穴の入り口に行くと、さっきは青空が見えていたのに、前が見えないほど雪が降っていました。
「大丈夫ですか?」うさぎの母親は心配そうに聞きました。「もう少し見られたら」
「途中また止むかもしれませんから、ゆっくり帰ります。雪がおさまったら青空も出るでしょう」お梅はそう言うと、「かんじき」でしっかり雪を踏みしめながら家に向かいました。
お梅が言うように雪は小降りなったり、また降りだしたりしましたが、お宮さんのまわりには大きな松の木が何本もあるので、それを目印にしながら進みました。それに、毎日のように通る道ですから、体が覚えているので、迷うことはありませんでした。
しかし、おばあさんがお梅のために雪かきしてくれた道を通って戸を開けると、おばあさんは喜んでくれましたが、「雪だるまのようになっておる」と笑いだしました。
お梅は囲炉裏のそばで、おばあさんが用意してくれた甘酒を飲みました。
それから、「おばあさん、体が温まりました。それで、足が折れたらどうするのですか?」と言いました。
「おまえの話はよく分からん。骨が折れたのか?」と答えました。
「いいえ。もし折れたらどうするのか聞いておこうと思って」
「用意周到なのかどうかわからんが、妙なことを聞く子じゃな。わしもよくわからんが、山桃の葉を煎じてそこに塗って動かさないようにするときいたことがあるが」
「ありがとう。それじゃ、また出かけます」
「また雪が降りだす。もうどこにも行かずに家でゆっくりしておけ」
「火鉢を忘れました。それを取りに行ってきます」
「そんなものいつでもよい。家におれ」
お梅は、「すぐに帰ってきます」と言って家を飛びだしました。