お梅(2)

   

「今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(183)
「お梅」(2)
お梅は誰か来ているのだと思って振り返りましたが、暗闇はしーんとしたままです。「誰かいるの?」と言いましたが、返事がありません。
ここを出ようとしましたが、この秘密の洞穴を知っているのは自分以外誰だろうという興味もあって奥へ進みました。
しかし、暗闇以外何もありません。誰かいれば暗闇の中でもわかるものです。
この洞穴は奥に行くにつれて少し曲がっているのでそこにいるのだろうと思って、もう少しだけ奥に行くことにしました。
お梅は八才ですが、いつも一人で遊んでいるので怖いということはあまりありません。
ゆっくりと奥へ進みました。そのとき、「命だけは助けてください」というかぼそい声が聞こえてきました。やはり誰かいたんだ。女の声です。
でも、命だけは助けてくださいなんて私をからかっているのかしらと思って、「大丈夫です。命なんか取りませんよ」と大きな声で言いました。
「ほんとですか!ありがとうございます」と先ほどの声が答えました。
「どこにいるの?姿をあらわしなさい」ともう一度言うと、「ここです」という声がしました。
どうも下から聞こえるような気がして、地面のほうを見ると、大きな石の向うに小さなものがいるようです。白いものです。
お梅はすわってそれを見ました。どうもうさぎのようです。「今はしゃべったのはあなたなの?」
「そうです」うさぎはお梅を見上げているようです。赤い目が光っています。
「あなたはわたしより足が速いのだから、さっさと逃げればいいじゃないの」
「そうですが、私の子供がけがをして動けないのです」
「どこにいるの?」
「ここです」うさぎは少し動きました。お梅は覗き込みました。どうやら、母親のおなかの下にいるようです。
「それはかわいそうね。でも、どうしてけがをしたの?」
「さっき遊んでいたときに、雪の下にあった穴に落ちてしまったと言っています。そのとき穴にあった石に足をぶつけたのです」
「さっき遊んでいたと言っていたけど、私が見たうさぎかしら」
「そうだと思います。人間が追いかけてきたから急いで逃げたと言っていましたから」
「それなら私に責任があるわ。少し見せてちょうだい」
「あのー、絶対捕まえないでください」
「そんなことしません。けがの状態を見るだけです」
「それならいいのですが、人間は私たちを食べるでしょう。友人の知り合いが罠にかかって連れていかれました。
友人が助けにその家に行ったら、すでに鍋に入れられていて、人間は「こりゃ、うめえっ」と食べていたそうです」
「確かに食べますが、そんなことをするのはほんの一握りの人間です。特に私のおばあさんはそんな殺生はしません」
「わかりました。それでは見ていただけませんか」と答えると、自分の子供に、「まだ痛いかい?やさしい人間が見てくれるそうだから、どこが痛いかちゃんとお話ししなさい」と言いました。
子供は母親のおなかから顔を出してお梅を見ました。すると、「ママ、この人間を知っている」と言いました。
「えっ、ほんとかい?」
「よくこのあたりにいる。そして、いつも一人なんだ。他の人間は仲間と遊んでいるのに」
「黙りなさい!」母親は慌てて制しました。そして、お梅の機嫌を損なわないように「申しわけありません」とあやまりました。
「いいですよ。ほんとのことだから」
子供は調子に乗って、「みんなに嫌われているんだよ。こういう人間は動物に辛く当たるから気をつけようと話していたんだ」
「いい加減にしなさい」母親は大きな声で叱りました。
「いいですよ。それくらい元気なら大丈夫です」
「でも、足がぐらぐらなんです」
「わかったわ。わたしに見せて。もし足が折れていたら、おばあさんが薬草に詳しいので聞いてみるわ」

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