秋の精

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~

「秋の精」
――う~ん。気持ちいいなあ。暑い夏を乗り切ったぞ。そして、人間ドックではどこも悪いところがなかった。人生はこれからだ。
おっ、紅葉も始まっているじゃないか。『秋山明浄にして装うが如く』か。おれも一花咲かさなくっちゃな
――その意気でがんばって
――誰だ!おっ、京マチ子か
――京マチ子!あなたも古いわねえ。でも、『雨月物語』に出てくる京マチ子のように妖艶ならうれしいわ
――そんなことより、あなたは誰?
――私?私は秋の精
――秋の精?聞いたことないなあ。春の精なら知っているけど。それに、秋の精なのに、どうして『雨月物語』なんて古い映画を知っているんだ
あなたに合わせただけじゃないの。芸術の秋ともいうでしょ。どんなことでも勉強しているのよ
――へえ。でも、同じ精なら、春の精のほうがよかった
――言ってくれるわね。春の精も確かにいるけど、見たことないでしょう?
――見なくてもわかるよ。レースのようなドレスで空をふわふわ飛んで、魔法の棒で花を咲かしているんだ
――イメージが独り歩きしている。そんなものじゃありません。毎日、長靴と軍手で雪かきしているわ。化粧もしていないから、人間の前には姿をあらわさないの
――ほんとか。それなら、どうしてあんたはぼくの前に出てきたんだ!
――それって、逆ぎれってやつ?今、秋はすばらしいとか独り言を言っていたじゃないの。それなら、その話をしましょうと思っただけじゃないの
――聞いていたのか?
――大きな声だから、最初誰かとしゃべっているのかと思ったら、どうも一人だけのようだったから
――秋の精というのならそれでいいけど、あなたは忙しくないのか。あったかそうな服を着ているけど
――余計なお世話です。山の上は寒いので、まだまだ足りません
――どんな仕事なんだ?
もちろん、季節を秋に変えるお仕事です。今から本番よ。市場調査をしていい秋を作ろうと思っています。みんなをがっかりさせると、雇い主から怒られるんですよ
――へえ。あんたらにも雇い主がいるんだ
――急にため口になりましたね。それのほうが本音を言ってもらえるかしれません。それじゃ、何かご要望は?
――そっちこそ急に仕事モードになったな。そうですねえ。ぼくらとしよりには、年齢のこともあるけど、秋が短くなったように思われます。
――そうですか。私もがんばっているのですが、夏と冬に挟まれて、尺が短くなったのです
――尺?季節にも尺があるのか
――あります、あります。スポンサーが多い季節ほど尺が長いのよ。雇い主が調整します       
――テレビ局みたいだ
――それと、季節同士のつばぜりあいもあります。だから、季節の精はみんな女です。女のほうがあつかましいですから
――自分で言っている
――ちょっとメモりますね。『秋が短くなったように思える』と。善処しますね
――役人みたいだな
――それと、秋になると寂しくなりませんか
――なるなる。人生の悲哀を感じるね。だから、自分の人生を見つけなおす季節だ。
でも、どうして秋は寂しくなるのかな
――今言われていることと関係があります。人生には喜び、悲しみ、また怒りがいっぱいあるでしょう?寂しいという感情はそういう喜怒哀楽の元々の姿なんですよ
――ほんとか
――怒っても喜んでも、いつか寂しくなるものです。秋は装いの季節ですが、物事の裸の姿を見せる季節でもあります
――よくわからないけど
――だからあまり長いと辛いでしょう
――言いわけしている
――そんなことありません。それじゃ、仕事に戻りますね。多少は長くするようにがんばりますから、せいぜい秋を楽しんで。それじゃ、さようなら
――さようなら

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