死神
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(138)
「死神」
ひどく寒い夜でした。案の上、ゴオーゴオーと風の音が聞こえはじめました。朝になると雪が積もっているかもしれません。
一人の男が、誰も歩いていない道を急ぎ足で歩いていました。仕事が終わった後、母親の見舞いのために実家に行った帰りです。
自分を一人で育ててくれた母親です。子供のときから泣き虫で臆病だったのを心配した母親は、いつも励ましてくれました。
でも、大人になっても、思うようにいかず、今は小さな陶器を売っている店の売り子をして暮らしています。
今は四十八才です。今は、金持ちにならなくでも、結婚して2,3人の子供がいる家庭がもてたらと思うようになっていましたが、それさえうまくいきそうにありません。
何か夢が叶うまでは、母親に会わないでおこうと思っていたのですが、2,3週間前に、近所の人から、「お母さんはそう長く生きられないかもしれません。一度お母さんに顔を見せてあげてください」という手紙が来たので、かなり迷ったのですが、ようやく勇気を出して会いに行ってきたのです。
母親は最初男の顔を見てもわからなかったのですが、話をしているうちに、ようやくわかって、「死ぬまでに会えないと思っていたが、おまえに会えて元気が出てきたよ。これからは何も心配しないで、できるだけ顔を見せてちょうだい」母親は、男の手を取ってやさしく言いました。
男はうなずいて、「これからは、世の中を怨んだり嫉んだりしないで、仕事を一生懸命しよう。それが、ママに対する恩返しだ」と決意しました。
帰り道、男は、「クリスマスが近い。お皿が売れるシーズンだ。どのように売ろうか」
今まではそんなことをなかったのですが、仕事のことをあれこれ考えながら暗い道を急いでいました。
「ご主人に認めてもらったら、店がもてるかもしれない。そうなれば、家族もできるだろう。そして、母親を呼んで・・・」
そのとき、「今日は遅いな」という声が聞こえました。「その声は」と思って振り返ると、死神でした。
「これは、これは死神様。お久しぶりです」男は挨拶をしてから、遅くなった訳を話しました。そして、「こんな遅くどこへ行かれるのですか?」と聞きました。
「こんな遅くと言っても、わしの稼ぎ時間はこれからじゃ。おまえのように、昼日中にわしを呼ぶ人間はそういない。しかし、クリスマスが近づくとわしの商売は上がったりでな」
「どうしてですか?」
「どうしてと言って、それは他人の幸せを祈るやつが増えるからじゃ。ひまだ、ひまだと嘆いていると、上得意のおまえが歩いているので、思わず声をかけたというわけじゃ」
「そうでしたか」
「早速じゃが、誰か死んでもらいたいものはいないのか。今なら、今晩中に殺してやるぞ」
「いや、今はいません。また頼むかもしれませんが、今のところは。
あっ、一つお願いがあるのですが、今お話ししたように母親が病気ですので、なんとか元気にしてくれませんか」
「何を言っておる。わしは死神だぞ。人間を殺すのが仕事だ。そこから、憎悪、敵意、不信、怨恨の種を作るのだ。それぞれの種が育つと、それはそれはきれいな花が咲く。そして、花が放つ匂いほどかぐわしいものはない。わしに無上の喜びに与えてくれる」
「それはわかっているのですが、今は母親の回復を祈っていまして。それなら、お知りあの方を紹介していただけないでしょうか」
「おまえは、今の店に入る前には、20以上の人を殺してほしい頼んだ。どうも自分の気に食わないと言ってな。
そして、今の店で仕事を見つけても、3日後には、同僚がいなくなれば、自分が店を任せてもらえるからとか言って。その同僚を殺してほしいと頼んだではないか。それで、その晩に同僚の心臓を止めてやった」
「みんな私が頼みました。でも、今は母親の命を・・・」
「しつこい男だなあ。でも、おまえには感謝している。ここに赴任してきたとき、人間はどういうものかわからなかった。しかし、やさしい顔をしているおまえがどんどん殺してほしいと頼むから、人間のことが少しわかったからな。
それじゃ仕方がないな。命を助ける知りあいはいないが、何もせずにぶらぶらしている者がいるから一度聞いてみよう」死神は去っていきました。
翌日の晩、男の部屋のドアを叩く音がしました。男がドアを開けると、老人が立っていました。
男は、「あなたは死神様が言って人ですか。どうぞお入りください」と部屋に招きいれましたそして、「何とか助けてほしいのです」と頼みました。
「いや。話は聞いたけど、わしは助けることはできない。また、助ける者は、昔はいたけど、今はどこかへ行った。
それから、死神も、人間のことが分からなくなったと言ってここを去った。相当ショックを受けていたぞ。わしはそれを伝えに来ただけだ。それじゃ」老人はそう言うと部屋を出ていきました。