シーラじいさん見聞録
オリオンは曖昧な返事をした。しかし、カメが大きな瞳で自分を見ているのを感じた。オリオンもじっと見た。
すると、突然緊張がほぐれた。「シーラじいさん!」と思わず声を出しそうになった。
オリオンは、「聞いてくれますか」と言って、なぜここにいるのかを話した。
カメはうなずきながら聞いていたが、初めて聞く内容だったので、それはほんとのことかわからなかった。
この少年の話しぶりから考えて、作り話ではないと思うが。「しかし」と首をひねらざるをえない。
おれたち海にいるものは、ニンゲンに捕まることはあっても、自分からニンゲンを待つことがあるだろうか。
それなら、以前、どこかの水族館にいたことがあって、海にいるより水族館に戻ったほうが気が楽だと考えたのだろうか。疑問がどんどん浮かんできた。
ようやく、「それで、ここで待つ約束をしたのだね」と聞くだけだった。
そのとき、カモメが数羽下りてきた、そして、「まだ来ないな」と言った。
「都合がつかないことが起きたかもしれませんね」オリオンが答えた。
「こちらから港に入ろうか」とカモメが提案した。
「他の港から回ってくることは考えられませんか?」とオリオンがもう一度聞いた。
「仲間が見回っているから大丈夫だ。重点的に海軍の船を探すから」
「海軍の船とはどういう船かな?」カメが思わず聞いた。
カモメは、誰だ?という顔でカメを見た。近くにカメがいることはわかっていたが、まさか口を挟むとは思っていなかったのだ。
オリオンは、「今、ニンゲンは戦争をしています。相手を攻撃するための武器を乗せている船です」と説明した。
「こちらは?」カモメはオリオンに聞いた。
「ぼくがここにいることを心配してくれて、何か助けることはできないかと聞いてくれたのです」
「なるほど」
「この少年は、海底にいるニンゲンを助けるためにニンゲンを待っていると聞いた」
「そうだ。今までそんなことをしたものはいない。それで、おれたちもオリオンを助けるために動いている」
「おれも、仲間がいるので何でもするよ」
「それはありがたいが、あなたたちは動きが遅いからなあ」カモメが言った。
「言ってくれますね。あなたはものすごい勢いで空を飛んでいるのは知っているが、急ぐからには何か訳でもあるだろうが、多くのことを見過ごしていると思いますがね」
「それは負け惜しみだ。それに、こっちは高い場所から遠くを見ることができるから、みんなの役に立つ」カモメは、馬鹿にされたと思ったのか、今まで言ったことがないようなことを口走った。
オリオンは、あわてて言った。「いやいや。ニンゲンがしていることで、ぼくたち海に生きるものも動揺しています。海の変化を感じて、致命的なことにならないようにしなければなりません。ぜひ助けてください」、
「了解した。具体的にはどうしたいいのだろう」
「最近まで、ぼくの仲間であるイルカが大挙して北に向かっていたのですが、それは、誰かに騙されていたようなのです」
「それは、おれたちも見たな。何事が起きたのだろうと話していた」
「この状況を利用して、ニンゲンを壊滅させようというものがいるのです」
「そのへんはわからないが、今までとちがったことが起きたら連絡するのだな」
「お願いします」
「誰に連絡するのだ?」
「カモメには、あなたたちが仲間であることを言っておきますから、あなたたちを見たら低く飛んでくれますから、何かあれば報告してください。
それから、北のほうに、シーラじいさんとベラがいますから、二人に言ってもらってもかまいません」
「きみがさっき言っていた先生だな」
「はい」
「おれたちも先生の話を聞きたいよ」
「これからよろしく。そのときはおれたちが案内するから」カモメもカメに頭を下げた。
「おれたちを仲間に入れてくれてありがとう。きみがまた戻ってくるまで、しっかりやるよ」
そのとき、別のカモメが下りてきた。「どうやら来たようだ。船首で懸命に双眼鏡をみているニンゲンがいる」
さっきからここにいるカモメが、「それは所長だ!」と叫んだ。
「そこへ行きます!教えてください」オリオンが叫んだ。
「よし。ついてこい」
「それじゃ、行ってきます」オリオンはカメに挨拶してカモメの後を急いだ。
あちこちからカモメが集まってきて船のほうに急いだ。
それは所長にも知らせるためだった。遠くに小さな船影が見えた。オリオンは渾身の力で泳いだ。