シーラじいさん見聞録
「それじゃ行こうか」
「お願いします」
「あっ、ちょっと待って」先頭のクジラが止った。すると、カモメが1羽下りてきた。そのクジラはカモメに近づいた。
オリオンの近くにいたクジラが、「リゲルたちに教えてもらったように、ぼくらも自分たちの場所は自分たちで守るために毎日動いているんです。
それから、ここにいるものにもその話をして、ぼくらに賛同してくれたものが仲間になっいます。まだまだ少ないけどね。あのカモメも仲間なんだよ」と説明してくれた。
話を聞いたカモメが飛びたった。戻ってきたクジラは、「仲間のクジラに伝えるように頼んだんだよ」と照れるように言った。
「それじゃ行こうか」3頭のクジラは進みだした。潜ったほうが早いだろうが、オリオンのために海面を進むことにしたようだ。ときどき、クジラたちは、「疲れていないか。もう少しゆっくり行こうか」と気にかけてくれた。
「いや、リゲルたちが心配しているかもしれないので急ぎます」と言った。
また、「ここから遠いですか」と聞いた。「多分1日ぐらいかかるかもしれないよ」という返事だった。
オリオンは、北極星をめざして進んだのにどうしてこんなにまちがってしまったのかわからなくなった。別の星を北極星と思ってしまったのかしれない。とにかく、マイクとジョンに恥ずかしい思いをさせてしまっているかもしれないと思うと気が気じゃなかった。
オリオンが焦っていることがわかったクジラたちは、「無理するなよ」と言葉をかけつづけた。
リゲルたちと同行しているカモメが下りてきた。そして、「また何か起きているようだぜ」と報告した。あちこちから船が集結しているというのだ。それも、二つのグループに分かれているから、多分敵味方だろう。何か起きるかもしれない。
「シーラじいさんは、大西洋で小競り合いがあったと言っていたが、ここでも起きるのか」ペルセウスが言った。
「それじゃ、オリオンの船も来ているのか」
「ベンは監視船の船長だからなあ」みんな不安そうに言った。
それを聞いていたカモメは、「オリオンが乗っている監視船は、見張っていたカモメが仲間を探すために少しの間持ち場を離れたために見失ってしまった。
しかし、あのあたりの船すべてがそちらに向かっているので、多分同じように向かっているのだろう。
担当のものには、今後絶対目を外すなと注意したが、本人はその船の特長を覚えているので、すぐに特定できると言っている。わしも、今から行って様子を見てくるので、何かわかったらすぐ報告する」と言って飛びたった。
「ぼくらはどうしますか」シリアスが聞いた。
「カモメが様子を知らせてくれるのなら、とりあえずシーラじいさんが来るまでこのあたりで待とう。
それに、アントニスやマイクたちはトロムソに向かっている途中だろうから、最新の情報を伝えたら喜ぶだろう」
リゲルたちに船に乗っていると思われているオリオンは、北極海で知りあったクジラの先導でトロムソに向かっていた。
クジラたちはようやく止まり、「リゲルたちとはこのあたりで別れたんだよ」と説明した。
「ここをまっすぐ行けば、シーラじいさんたちがいると言っていたな」と北極と反対の方角を指した。
「このまま行けば、きみが言っていた出入りの激しい海岸があるはずだ」
「そこにトロムソという町があると聞いています」
「きみもニンゲンの言葉が分かるんだね」
「大体わかります」
「それじゃ、順番に探そうか」
「でも、迷惑じゃないですか」
「リゲルたちにはお世話になったんです」。最後まで役に立ちたいし、リゲルたに直接会って、今のぼくらのことを話したいんだよ」
「わかりました」オリオンはクジラたちの気持がわかった。それで、全員で西に向かうことになった。ようやく、陸が見える場所に着いた。しかし、陸地に近づきすぎると危険なので、クジラたちには少し離れた場所で待ってもらうことにした。
オリオンはそのまま陸地に近づいた。スカンジナビア半島は途方もなく長いらしいが、トロムソは北極圏に近いとのことなので、あせらずに探せば、そう時間もかからないだろう。着くのが遅れたが、リゲルたちに会いたいというクジラにも会うことができたのは不幸中の幸いというものだ。オリオンはそう思って、自分を落ちつかせた。そして、途中見かけた船に書いてある文字に注意しながら進んだ。そこに、トロムソという言葉があれば、その船を追いかける。
ようやくシーラじいさんとベラが追いついた。リゲルはカモメからの報告を説明した。
ベラは、「やはりそうだったのね。空の動きが慌ただしかったので、何か起きているかもしれないですねとシーラじいさんと話していたの」と言った。
しばらくしてカモメが下りてきた。船と船が戦っていないのに、1隻の船が突然傾いて沈んでしまったんだ」
「それはどちら側の船ですか」リゲルが聞いた。