シーラじいさん見聞録
「あれは氷山といって、水が凍ったものだよ」
「前に見たことがあるけど、あんな大きなものは見たことがない」
「それにあちこちに浮いている。海が凍ったのですか?」
「いや、そうじゃない。陸にあるものが何らかの理由で突然海に落ちるんだ」
「融けないのですか?」
「融けない。このあたりは寒いからだろう。それから、海に落ちるときはすごい音がするぜ。バリバリドッカーンと爆発するような音がするから、最初は肝をつぶして空高く飛びあがったものだ。ここにいるカモメに笑われたよ」
「すごいですね。ぼくらも聞けますか」
「もちろん。ミラがいたという場所はそちらのほうだから、すぐに案内するよ」
そのカモメの先導で北に向かった。風はさらにきつくなってきた。ここにいるカモメはきつい風でも平気のようだが、一緒にここまで来たカモメは辛そうだった。そのちがいを見ながら、早く慣れなければならないとリゲルは思った。
やがて目の前に氷山があらわれた。これが氷山か。見あげるほど大きい。ミラの何倍もあるぞ。みんなそう思って、氷山の前で止まった。
「すごいものだ!」誰もが口々に叫んだ。「こんなものにぶつかったらお仕舞だ」
現地案内人のカモメは、「そうだ。ぶつからないようにしてくれよ」と言った。
「でも、敵がきたら隠れることができるかもしれないぞ」と誰かが言った。
「それなら、この下を潜ってみろよ」カモメが提案した。
みんな潜った。しばらくして上がってくると、「海面に浮かんでいる何倍もの大きさですね」と驚いた。
「そうだろう。おれたちは直接知らないがそう聞いた」
「それを頭に入れて、氷山をうまく利用するんだ」別のカモメが言った。
「これからはすごい量の氷山が浮いているよ」
「どうしてこんなものがあるのだろう」
「シーラじいさんから聞いたけど、おれたちの先祖が生まれる前からあるそうだ」
「地球は広い。そして、美しい」
「こんなところで、ミラは何をしているのだろう」
「あっ、あいつらは?」かなりの数のクジラが一段となってどこかに急いでいる。「ミラか?」
「いや,ちがう。見覚えがある。あいつらはずっとここにいるクジラの仲間だ。親子や親戚が一緒にいるんだ」
「それなら、あいらに聞けばわかるのじゃないか?」
「そうなんだけど、おれたちが聞いても何も教えてくれないんだ。連中は、おれたちのように、種類がちがえばコミュニケーションを取るということはない。そこを何とかしようとみんなで話しているんだけど、うまくいかない」
「子供は話してくれるんだけどな」
「普通のクジラのように、世界中を動いているものは機嫌がよかったら話をしてくれるんだけど、逆にここのことがわからないから、あまり役に立たない」カモメたちも口々にここの状況を話した。
「むずかしいものですね。ぼくらが聞くようにしますよ」リゲルが答えた。
そのとき、大きな音が空に響いた。海面も揺れたような気がした。
「氷山が海に落ちた音だ。すごいだろう?正確に言えば氷河というものが崩れて海に落ちたんだ。その塊が氷山と言われている」
「どこで落ちたんですか?」
「この島の向こう側だよ。静かだからよく聞こえるんだ。これは続くぞ。ほら、また落ちた」
「おれたちも早くここに慣れてミラを探そう」リゲルがみんなに気合を入れた。
「言い忘れていたけど、どうもクラーケンらしきものが最近増えているような気がするんだ」カモメも任務を思いだしたようだ。
「ほんとですか」
「さっきいたクジラやシャチの一団はもっといたけど、最近は今まで見たことのない連中が増えている。クラーケンかも知れないなとみんなで話しているだ」
「クラーケンが世界中で暴れていても、このあたりには平和で、漁師が漁をしたり、観光客が集まったりしていたのだが、最近は減ってきたとここのカモメから聞いたよ」別のカモメも証言した。
「最近センスイカンが破壊されるという事件が、北極海のあちこちで起きているんですよ。ニンゲンは、相変わらず相手を責めているけど、ひょっとしてそいつらがしでかしたのかもしれませんね」リゲルは答えた。「しかし、センスイカンのカメラには何も映っていないそうです」
「おまえたちが来てくれたから、おれたちはクラーケンを重点的に追いかけようか」
「そうですね。やつらの動きがわかるかもしれません」
「さっき核攻撃があったと聞いたけど、オリオンは大丈夫だろうか」カモメ同士はすでに情報交換をしていたのだ。
リゲルはシーラじいさんから聞いたオリオン救出作戦を話した。
「そうか。まずミラを探して、一緒に帰ることが作戦の第一歩なんだな」
「そうです。ぼくらも、絶対見つけるという決意でここに来ました」リゲルは力強く言った。
「それじゃ、今から捜索開始だ」カモメたちは飛びあがった。