シーラじいさん見聞録

   

リゲルたちはいったんシーラじいさんがいる場所に戻ることにした。
カモメも含めて、全員で2,3時間探しまわっても見つからない以上、計画的に探さなければならないからだ。
サウサウプトン近くの海から戻っていたペルセウスは、いちはやくリゲルたちを見つけて、「見つからなかったか?」と聞いた。
「手分けして探したが、どこにもいない」リオゲルは言った。
「ニンゲンたちも探しているようじゃ」心配して海面にいたシーラじいさんが言った。
「えっ!」リゲルたちは驚いたが、「ニンゲンは、ミラがクラーケンに向かっていったのを目撃して、ひじょうに感謝しているようじゃ。
ミラがけがをしていたので、クラーケンに襲われたら、今度は自分たちで助けてやろうと思っている」
「それはわしの推測ではなくて、アントニスが何回も手紙に書いてきておる」
「ミラが、一人でクラーケンにぶつかっている様子は、毎日のようにテレビでやっているそうだよ」ペルセウスも得意そうに言った。
「そのようじゃ。オリオンが海に連れてこられたとき、今まで見たことのないサメが目撃されたが、それで、クラーケンが実際にいると信じられるようになった」
「シーラじいさんから聞いたことがありますが、それは船に絡みついて沈めるという怪物ですね」ベラが聞いた。
「そうじゃ。それは昔の作り話と考えられていた」
「ボスはそれと戦ったことがあるし、ボスの子供のミラとオリオンは近くで見ている。
ぼくは、影だけですが、あわてて逃げたくなるほど大きかった」ルゲルは、今でも恐れているように言った。
「だから、ここにいたら、ほんとのクラーケンが来るかもしれないとニンゲンの兵隊でもあわてたんだ。そこに、ミラが来てくれたってわけさ」ペルセウスは納得したように言った。
「ただ、わしが心配しているのは、センスイカンに撃たれてけがをしているに、ミラはなぜわざわざそっちに向かったかじゃ」
「ミラが何か勘違いしたか、それとも・・・」
「もう一度探しましょう」ベラが急がせた。
「そうしよう。シーラじいさん、カモメは、できるだけ多くの仲間を集めて探してくれていますが、おれたちはどうしたらいいですか?」リゲルが聞いた。
「むやみに遠くまで行くのは危険じゃ。特に一人では動くな。どこにクラーケンがいるかわからぬ。カモメが大勢来てくれているのなら、常に遠くを見てもらうことじゃ」
「わかりました」
「ペルセウスにはここにいてもらう。アントニスの手紙でミラについてわかったことがあれば、すぐにペルセウスをそちらに行ってもらう」
「了解しました。それじゃ、出発します」

イギリス海軍の将校であるベンは、オリオンから聞いた話を確認するためにロンドンに戻っていたが、10日後に海洋研究所に戻ってきた。
「オリオン、ビッグニュースだ!」
その声はベンだ。オリオンはそちらに近づいた。「海底にいる人間を助けることができるぞ!」
「話がついたのですか?」オリオンも興奮した声を出した。
「まだそこまでは行っていないが、ソフィア共和国の当時の海軍大臣に話を聞いてきたんだ」
「見つかったですか?」
「見つかった。フランスに亡命して、そのままそこで暮らしていた。連絡をすると、話をしてもいいと言うのですぐ行ってきた」オリオンはさらに身を乗りだした。
「その内容はきみが乗組員から聞いたのと同じだった。偶然の事故で海底に膨大な量の鉱石が見つかったので、それを取りだすために、もう一度潜水艦を送りこんだそうだ。
当時は冷戦時代で、密かに軍備を拡張していたので、いくら予算があっても足らなかったので、国は相当期待をしていたそうだ。
それで、3000メートルまで行ける有人の潜水艦を軍事予算の半分ほどをつぎこんで開発したらしい。
そして、採掘に行ったのはいいが、潜水艦と連絡が取れなくなってしまった。
同時にクーデターが起きて、大統領をはじめ、政府の幹部は、みんな逮捕されたり亡命したりした。
大臣に、乗組員たちの消息を聞いたが、そういう事情で分からないと言うことだった。
それで、ぼくは、乗組員は海底で生きているということは考えられないかと聞いてみたが、何をばかなという顔で首を振るばかりだった。
とにかく、きみから聞いた話は上官に伝えていたが、それと同じだったので、上官は言葉を出せないほど興奮していたよ。
きみの話を合わせると、海底にいる乗組員は、まだ自分の国がなくなったことは知らないようだな」
オリオンはうなずいた。「そうだと思います。そのときは、ソフィア共和国に伝えてくれということでしたから」
「ただ、今の状況を考えたら、人命救助を前面に出すのはまずいような気がするんだ。
きみは気にくわないかもしれないが、鉱物を前面に出したほうが、事態は早く動くような気がするんだけど」
「それはかまいません。そこに行けばニンゲンがいるのですから」
「わかってくれたらうれしい。ぼくの上官がここに来たら、それ強調するかもをしれないからな。
それと、ひとつ気になったのは、大臣は、1年ほど前に、アメリカの新聞記者にこういう取材を受けたことがあると言っていた」
オリオンは、アントニスたちが動いてくれているかもしれないと思ったが黙っていた。
「大国が崩壊したのだから、学者でもジャーナリストでも興味があるんだろう」ベンは納得したように言った。

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