シーラじいさん見聞録
「信じられない」マイクは頭を振った。
「ぼくらは、クラーケンからそれを何回も聞いてきました」
「どこかの国が操っているのではないかと考えていた」
「もしそうなら、その国に向かわないはずでしょう?」
「まあ、そうだが」
「ニンゲンを絶滅させるまで攻撃をやめないというのが彼らの考えです」
「考え!」
「そうです。それに、彼らはぼくらと同じように、ニンゲンの言葉がわかります」
「ほんとか!」
「まちがいありません。だから、シーラじいさんは、ニンゲンの本や雑誌を読んで、クラーケンの動きを予測していました」
「そんなことが!それなら、クラーケンに命令を出している者がいるのか?」
「クラーケンには王がいます」
「ああ。頭を整理してから、また話そう」マイクは顔を歪めて出ていった。
オリオンも、思いを吐きだしのでぐったりした。
カモメは、アントニスの手紙をもって出かけた。ヘリコプターが飛びまわっているので、地元の仲間20羽近くが同行した。
海は、今は静まりかえっているが、ところどころに大きな死骸が浮いていて、そのまわりは真っ赤に染まっていた。
「こんな光景は見たことない」
「速く行こうぜ」
「でも、ぼくらは、どれがシーラじいさんの仲間なのかわからないよ」
「それはそうだな。でも、このあたりにはいないから、もう少し行ってから説明するよ」
警戒していたヘリコプターが突然降下することがあるので、注意しながら進んだ。
ようやくアイリッシュ海が見える場所に来た。「よし、シーラじいさんたちはこのあたりにいるはずなんだ。
もっともシーラじいさんは海面にはいない。リゲルやベラをはじめ10頭近くのシャチ、シリウスなどのイルカなどがいる。それに、ミラというクジラもいる」
誰かがいたら、名前を呼んでくれ。シーラじいさんと呼んでもいい。必反応してくれる。そして、すぐにおれたちに連絡してくれ」カモメが別れて探しはじめた。
シャチやイルカが集まっているので、声をかけたが返事はない。それなら、クラーケンがまだ様子を伺っているのだ。
それを聞いた先導してきたカモメは、「リゲルたちは大丈夫だろうか」と不安になった。
「しかし、シーラじいさんがいるから心配しなくていい」と自分を励ました。
その時、「おい、無事だったか」という声が聞こえた。リゲルたちに同行している仲間だ。「おれたちは大丈夫だ。シーラじいさんたちをどこにいる?」
「シーラじいさんは、すぐに西に行けと命じたので、間一髪で助かった。このあたりは、すごいことになっていた」
「そのようだな。今もあちこちに死骸が浮いている。でも、あちこち集まっているぞ」
「やはりそうか。今の様子を見に行くようにリゲルに言われたので来たんだ」
「会えてよかったよ。アントニスからの手紙をもっている」
「それじゃ、いっしょに行こう」
全員で西に向かった。冷たい風が吹いていたが、海は穏やかだった。
リゲルたちはすぐに見つかった。カモメは、イギリス海峡やアイリッシュ海の様子を報告したとき、シーラじいさんが上がってきた。
初めてシーラじいさんを見るカモメは驚いた。まるで、自分たちが知ることができない海の内側そのもののような気配が感じられたのである。
「みんな、ごくろうじゃったな」とねぎらわれると感動した。そして、アントニスからの手紙を見ると、「アントニスは、オリオンがいる場所が大体わかったと書いている。小鳥に頼んで、そこを調べてもらってくれ」と言った。
「わしらはもう少しここにいる」シーラじいさんたちはカモメを見送った
イリアスは、アントニスとダニエルが留守の間、ずっとカモメを待っていたが、姿を見せなかった。
3日後の朝、アントニスは、「ぼくらで探そうじゃない」と言った。
「不審に思われないか」ダニエルが答えた。
「もうぼくらは10日間仕事をしている。何かしても、誰も不自然だと思わないよ」
「どうするんだ?」
「その時に考えよう」
昼の休憩のとき、2人は別館にある休憩室を出た。そして、外に出て、本館の横を歩いて、奥に向かった。
奥に行くことを禁じられているのだが、内部をうろつくことよりも怪しまれないだろうと考えたのだ。
しかし、何気なく歩いていると、どこからか警護が飛んできた。
「おまえたちはごみを収集している者か。どうしたんだ?ここは侵入禁止だぞ」
「もちろん、それは知っています。主任から奥へ来てくれという連絡があったもので。
そのことは伝わっていると思ったんですが?」
「いや、聞いていない」
「多分、特別の収集で、連絡を忘れたのでしょう。仕事が終わればすぐに戻りますから」
警護は、それ以上言わずに戻った。
2人は顔を見合わせた。「地下室がありそうな場所を探そう。カメラがあるぞ。注意しろ」
一番奥まで歩いていった。そこを右に曲がったが、何もない。
「見ろ」とダニエルが小さな声で言った。地上から1メートルぐらいの高さに突起物がある。そこから、低いモーター音がしている。
「戻ろう」「ごみがないが怪しまれないか」
「ぐずぐずしているよりいいだろう。出てきても何かとりつくろう」
先ほどの警護は出てこなかった。