シーラじいさん見聞録

   

翌日、アレクシオスに電話をすると、「新聞社が全面的に協力することになったぞ!」という返事だった。
「ありがとう、アレクシオス。ジムとミセス・ジャイロはイギリスにいるから、ぼくらは、フランスがいいと思うんだ」
「ぼくもそう思って、社長に頼んでいる」
アントニスは、イリアスに、「ぼくらもフランスに行けるぞ」と説明した。
イリアスは、「よかったよ。ぼくらが一番自由なんだから、待っていちゃだめだもん」
「そうだな。ぼくらをお金持ちにしてれくれたのはオリオンだから、今こそ恩返ししなくちゃな。
手続きには10日ぐらいかかるから、その間に、ぼくらもすることがある。まず、シーラじいさんに手紙を書く」
多分、昼ごろに、カモメが来てくれるかもしれないと思い、庭で手紙を書いた。
案の定、バタバタという音を立てながら、テーブルの上に降りたった。
「待っていたよ。これをシーラじいさんに渡してくれないか。これからきみたちも忙しくなる。たいへんだろうけど、お願いするよ」と声をかけながら、それを渡した。
カモメは、アントニスを見ながら頷いた。
シーラじいさんたちはゆっくり西に向かっていた。手紙は、今後ペルセウスに渡すことになっていた。リゲルたちの場合、ニンゲンに見つかる危険があるからだ。
「そうか、アントニスとイリアスはフランスに行くのか」シーラじいさんは、手紙を読みながら言った。
「イリスもですか?」リゲルが聞いた。
「そうようじゃな。オリオンを心配している気持ちは人一倍じゃから、イリアスが計画したことかもしれぬ」
「みんなが動けば、オリオンを助けるkとができるわ」ベラも力強く言った。
カモメは、シーラじいさんたちから聞かれたら話すが、今手紙を運んできたカモメは、状況を説明しはじめた。
「仲間はイギリスに向っています。新しい仲間も、どんどん増えています。
しかし、心配なことがあります。わたしらが集まって飛んでいると、襲われることがあります。
それで、怖がって、わたしらから離れるのもいるのです。これは、どうしたのでしょうか。一度、シーラじいさんに聞いてみようと思っていました」
「やつらは、何か言っておるか?」
「自分たちについてこいと指示を出します。しかし、それを無視して飛んでいると、襲ってくます」
「クラーケンの影響を受けたカモメがいることは聞いていたが、相当増えているのかもしれないな。とにかく、昼の行動には気をつけたほうがいい」
「わかりました。何かあれば、また連絡をします」カモメは飛びたった。
「シーラじいさん、みんなと地中海を出たあとのことを話しあいましたが、それ聞いてください」リゲルが言った。
シーラじいさんはうなずいた。
「クラーケンは、ヨーロッパで暴れているようです。今の話から推察すると、以前から聞いていたように、クラーケンは、カモメなどの鳥を巻きこんで、病原菌を撒いたりして、空からもニンゲンを攻撃するようです。
ぼくらも、地中海に出ても、どう行動するか考えておかなければ、少ない仲間しかいませんから、何もできません」
「確かにそうそうじゃ」
「地中海を出たときから、クラーケンとニンゲンの戦いは、あちこちで繰りひろげられていることでしょう。
そこで、ニンゲンに加勢をして、クラーケンを追いはらうのです。それを目撃したニンゲン、今の事態が、海の生き物とニンゲンという単純な構図ではないとわかってくれるはずです。
やがて、ニンゲンはぼくらに近づいてきます。英語を話すようになったベラがいれば、少しずつ真実をわかってくれるようになります。そうなれば、オリオンのことも、海底にいるニンゲンのことも、ニンゲンが積極的に動いてくれると思います」
シーラじいさんはじっと考えていたが、「おまえたちの気持はよくわかる。しかし、ニンゲンに、おまえたちとクラーケンのちがいがわかるかどうか。
そういう状況になったら、それもいいじゃろが、こちらから仕掛けることは危険すぎる。おまえたちが攻撃されたら、元も子もない。
今は、アントニスをはじめ、ジム、ミセス・ジャイロが動きだしている。もう少し様子を見よう」
「あの白い崖の向こうがイギリスだな」1羽のカモメが言った。「そうだ。シーラじいさんが言っていたとおりだ」もう1羽が答えた。
「あのあたりがドーバーという町だろうか?」
「そうだろう。多くの船が停泊している。漁船もいるから、うまいものがあるかももしれないぞ」
「もう少し北にいけば、大きな川があって、そこを遡(さかのぼ)っていけば、イギリスで一番大きいロンドンという町があるそうだ。
でも、しばらく海岸に沿って様子を見ようじゃないか」
「それがいい」
ここのカモメなどが飛びまわったり、休んだりしているんで、2羽のカモメは、安心して町の様子を楽しんだ。
「おい、あそこに赤い服を着たニンゲンがいるだろう?さっきから、ずっとおれたちを見上げているけど、ミセス・ジャイロじゃないだろうか」1羽が言った。

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