シーラじいさん見聞録

   

「リゲルとミラを探したんだけど、見つからないんだ。2人がここへ来たら、10分間だけ穴に入ったと言ってくれないか。事情は後で話すから。もちろん、入れなかったら帰ってくる」
「無理しないでくれよ」シリウスが声をかけた。「そうよ。リゲルとミラが来てからでもいいじゃないの」ベラも心配そうに言った。
「そう思ったけど、ペルセウスを早く助けてやりたいんだ。
みんなで入るときのためにも、まず誰かが見てこなければならない。予想もできないことが起きたら、たいへんなことになる。きみらは、ペルセウスが帰ってこないかをよく見ておいてくれ」オリオンは、そう言うと穴に向かった。
思っていたように硫化水素が止まったところだ。「来ました」オリオンは叫んだ。
その声で、穴のまわりのものは、了解したというように大きく揺れたようだった。
子供の声が聞こえた。「みんな調べてくれたよ。穴の中をしばらく行くと、また二つに分かれている。
きみらにとっての毒は、一方の穴からしか出ていない。だから、こいつらの仲間も、そこだけにいる。
だから、出ていない穴の奥はどうなっているかわからないけど、ときどき何かが出入りしているようだといっている」子供も、急いで報告した。
「ありがとう。それだけわかれば怖くない。後8分あるから、すぐ入ってくる」
「気をつけて行くんだ」
オリオンは中に飛びこんだ。においはかすかに感じられるだけだ。200メートルほど進むと、何か感じた。ここで分かれているのかもしれない。そう思って、右に寄った。何かびっしりいるようだ。そして動いているような気がする。
オリオンは、すぐに反対側に向かった。そして、そのまま進んだ。しばらく行くと、また暗闇が斑になっているように感じた。また分かれているのだ。急いで、左右を窺ったが、誰もいない。どちらに行こう?えぃと右に進んだ。
今度はどこまでも続く。誰もいない。しばらくすると、胸騒ぎを感じた。時間がない。1分を切っているかもしれない。
オリオンは、今来た道を引き返すことにした。しかし、どう行けばいいのかわからなくなった。体に覚えさせてきたはずなのにどうしたわけか。
戻ろうとしているに、大きな岩にぶつかってしまう。オリオンはあわてた。もう30秒しかない。
ようやく最初の穴に戻ったとき、激しい音がしているのに気づいた。そして、においもきつい。硫化水死が噴きだしているのだ!
このまま進むことは危険だ。すぐに引きかえした。音は感じられるが、においはしなくなった。
1時間まっていなければならない。あせるな。オリオンは自分に言いきかせた。
そして、体を消耗しないように、片目をつぶってじっとしていることにした。
また硫化水素が勢いよく噴きだしはじめたので、リゲル、ミラ、シリウス、ベラは少し離れざるをえなかったが、不安は最高潮に達していた。
「ああ、オリオンが帰ってこない。止めればよかった。いや、ぼくがついていって、早めににおいを感じたら、こんなことにならなかったのだ。ペルセウスの次に、オリオンか!
みんなぼくのせいでこんなことになった」シリウスは、体を震わせて嘆いた。
「まだあきらめるのは早すぎる。ところで、オリオンは、時間を絶対まちがわないのに、どうして出てこなかったのか」リゲルは、わざとゆっくり言った。
「そうだな。もし硫化水素を吸ってしまったら、浮いてくるはずだが」ミラも、静かに答えた。
「それはないわ。ずっと見ていたから」ベラも落ちついて言った。
「それなら、中は複雑な構造になっているかもしれない。後53分だ。オリオンなら大丈夫だ」リゲルは、シリウスだけでなく、ミラやベラが動揺にしないように言った。
みんな、それ以上言わずに、硫化水素が噴きだすシュー、シューという音をじっと聞いていた。

オリオンは、天井の岩に体を任せて、片目のまま休んでいた。これが、一番消耗が少ないのだ。
とにかく、後50分立てば、ここを出られる。しかも、出口はわかっている。
ようやく55分が過ぎたように感じた。しかし、頭がぼっとしてきた。少し体を動かして意識がしっかりするようにした。57分だ。よし、ゆっくり動こう。3分あれば、あの子供がいる穴に着く。そして、すぐに海面に急ごう。
このままでは岩に体が当たるから、岩から離れようとした。そして、そのまままっすぐ進んだが、また岩に当たってしまった。どうやら反対側の岩にぶつかったようだ。
この感覚が戻っていない。だんだん息苦しくなってきたが、今の半分の長さを直角に曲がった。
どうやら、2番目の分かれ道を抜けることができたようだ。そのまま、上に向かった。
しかし、においがする。止まっても、少しの間残っているものかと思ったとたん気を失った。
「よし、止まったぞ」、「行こう」と、みんな動きはじめた。そのとき、ベラが、「何か出たわ!」と叫んだ。しかし、穴から出てきたものは、腹を見せたまま浮いていた。
「オリオンだ!」、「オリオンにちがいない」
「とにかく、上に運ぼう」リゲルが叫んだ。

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